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Feb 15, 2010

NPOの理念と経営の両立

 老人施設「たまゆら」火災について、以前ブログで「療養施設の失敗で生活保護者を受け入れるようになったのでは」と書いたが、やはりそういう状況だったというのが分かってきた。先日逮捕された理事長の話によれば、「高齢者施設運営の失敗で借金が生じ、経営のため生活保護者を受け入れた」とのことである(産経新聞記事による)。
 となれば、たまゆら=貧困ビジネス=悪、という単純な図式では捉えられない部分もあろう。もちろん、火災の危険性を考慮しない増改築や、避難体制をきちんと整えなかったことは責められるべきである。しかし、はじめから生活保護を目当てにしたいわゆる「貧困ビジネス」とは言えない面もあり(保護費を収入の核にする点では変わらないわけだが)、なぜそのようなビジネスに手を出さざるを得なかったか?という部分をきちんと考えなければならない。
 直接調査はしていないので詳しいところは分からないが、定款や事業報告書の記述からすれば、この団体も最初は高齢者の暮らしを支えるサービスを提供とするという理念に基づいて活動が始まった部分は(少なからず)あるのではないか。そしてその理念を実現すべく、土地建物を取得して温浴施設・療養施設を開いたがうまくいかず、抱えた借金の返済のために(ある面では仕方なく)生活保護者の住まいへと転換し、資金も人員もかけられないから安全性の低い増改築と体制になってしまい、結果あのような事故が生じたのだとしたら、理念を実現する手段、特に経営面に問題があったということだろう。
 理念はあるが経営は難しい。そういうNPOは他にもある、というか大半のNPOがそういう状況なのであるから、経営が厳しくなったことで、同様の形で活動が展開してしまうところが出てこないとも限らない。特に「住まい」をつくる、土地や建物がなければならず、そのために多額の費用が必要となる活動を行う場合には、理念に基づいて思い切って始めてみたものの、同じ状況に陥る可能性も高いと言わざるを得ない。そう考えれば、特定の問題ある団体が起こしてしまった事故というよりは、どんなNPOにも当てはまるような普遍的問題が、ここにはみられるような気がするのである。
 理念と経営とをきちんと両立させて適切に運営している団体もあるわけで、そこは団体の能力・力量の問題であると言えなくもない。しかし、自前で出来ないのならばやるなと言ってしまっては、こういう公益的な領域での活動は広がっていかない。理念を持つ人が、それを適切な形で実現し、継続的に経営・運営できるような社会的仕組みを、特に難しい住まいの分野でつくっていくこと。今回の事故をきっかけに、生活保護者や高齢者の暮らしをどうするかに加えて、こういう部分についても考えていかなければならないのだろう。

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Feb 10, 2010

異なる研究テーマの間で

 年頭に「今年はブログを書く」とかいいながら、この間すっかり書けていなかった。ずっと原稿書きで忙しかったので、ブログを書く気にもなれなかった。しかも一見すれば全然違うようなテーマを扱っていたので、本当に大変だったのである。
 1月中旬くらいまでは『季刊まちづくり』という雑誌の特集企画にかかりっきりであった。都市計画の制度改正の動きを踏まえて、今後何が必要かのアイデアを並べたようなもの。こちらが企画立案したものなので、目次案の検討から原稿の依頼、他の人が書いた原稿へのコメントに、自分で担当する分の執筆、さらには全体まとめの原稿書きと、やることは山のようにあった。十分にやりきれなかった部分も多く、不満も残るのであるが、まあ終わってよかったというところである。
 その後は、『ホームレスと社会』という雑誌の原稿書き。こちらはいわゆる住宅弱者に向けた居住支援について、近年調べているNPOの活動を軸に紹介するもの。単著での原稿なので、上のような他の人との調整がないのはよいのだが、これまで関わってこなかった分野の雑誌への執筆であり、完全“アウェイ”の状態で何をどう書けばよいのか大いに悩み、なかなか筆が進まなかったのであった。なんとか書き上げたものの、これでよいのかは未だ悩むところであり、原稿は提出したものの校正時にどこをどう直そうかを引き続き考えているので、終わったようで終わっていない状況である。
 …と全く異なってみえるテーマでの原稿書きを終えてみると、いったい私は何の研究者なのかがよく分からなくなってくる。前者の都市計画も、後者のハウジングもやってきたわけであるが、ここに来て両者の内容がかなりかけ離れてきていて、研究者としてはある意味「分裂」気味である。良いものをよりよくしようという志向が(最近は)強い感じの前者と、悪いものを最低限ここまで持っていこうという志向の後者とで、発想のベクトルは真逆にも思えてくる。
 一応自分の中では、「まちづくり」を媒介に「都市計画」と「ハウジング」はつながっていて、また弱者も含めて出来るだけ豊かな住まいで暮らせるまちがよい都市という感じで捉えているのであるが、やはり両者の方法論は違うし、やっている人々の集まりも別だし、そのあたりは難しいところである。本当はきっちりと両立させて、両者がつながるような成果が出せればよいのだが、そこまでの力量もないので、中途半端に両方やるとどちらからも非難を浴びそうなのが少々怖い。多分今回の2種類の原稿も、都市計画プロパーからは考えが足りないと言われ、ホームレス系の人々からは実態を知らないと言われそうである。
 どちらか一方に絞ってその分野できっちりと成果を出すのがよいのか、それとも今までのスタンスをとり続けて両立を目指すのがよいのか、以前からずっと悩んでいることではあるのだが、ここに来てさらに難しくなったような気がする。

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