事業仕分けの実現性は
政府の事業仕分けで、都市再生機構(UR)所管の賃貸住宅は、高齢者・低所得者向けを除いて「民営化」すべきとの結論が出されたとのこと(Yahoo! Newsへのリンク)。約77万戸の管理ストックのうち、高齢者・低所得者向けの住戸(国交省の調査で11.3%=約8.7万戸)は自治体や国に移行、それ以外=68.3万戸は段階的に民間に売却していくという。どういう議論がされてこの結論が出されたのかは分からないが、実現の可能性やそのための手段というものを十分検討した上で、結論が出されているのだろうか。
高齢者・低所得者向けを自治体や国へ移行するということは、実質的には「公営住宅化」するのとほぼ同じことだろう。その際に、UR住宅の家賃と公営住宅の家賃の差をどのようにするのか、また公営住宅化された住宅の管理を自治体や国がきちんと出来るのか、その辺がみえてこない。近年、財政悪化に悩む自治体の多くは、公営住宅をつくりたがらない・抱えたがらなくなっており、それこそ廃止を検討するところも出ている中で、どうやってUR住宅の移管を進めていくのだろうか。移管に際して仮に国から一定の補助等がつくとしても、受けたがらない自治体は多いはずで、にも関わらず自治体へと押しつけるのは問題だし、国が担うのだとすれば今以上の大きなコストがかかるかもしれない。
民間への売却も、約70万戸という膨大なストックを、適切な形で適切な民間企業に売り渡すことができるのだろうか。都心に近い優良物件の買い手はいても、郊外部の大規模な住宅団地を購入する民間が出てくるのか。後者が売れ残れば、採算の取れない物件だけが残るわけだから、不良ストックを抱えたURの経営はうまく行かなくなり、その救済のためにさらなる公費の投入が必要になったりはしないのだろうか。一方で、民間に買われた優良物件は、近い将来に取り壊されて高容積で建て替えられるのは目に見えており、民間企業は高い収益を上げるが、居住者は追い出されるということにもなりかねない。
などと考えると、事業仕分けというのは、判断の結果の是非はともかくとして、政策全体の長期的なあり方を全く考慮することなく、短期的な事業の無駄や財政再建だけを考えて、あまりに近視眼的に判断されているようにみえる。そうやって出された判断の結果を、これから実現していくのは至難の業だろうし、なんとか実現したとしても中長期的に大きな問題が生じるのではないか。そうなったとしたら、現政権が批判してきた“小泉改革”と全く変わるところがない。同じことを別の形で繰り返しているだけのように思えてしまうのである。
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