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Jun 29, 2010

都市計画の観点から2010マニフェストを読む:その他政党編

 住宅政策編と同様に、残る4党(国民新党・みんなの党・新党改革・たちあがれ日本)のマニフェストについて、都市計画関係の内容を整理する。

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■国民新党
 「2010政策集」の中で、都市計画やまちづくりについて直接的に触れているものは見あたらない。関連がみられるものは、防災や公共事業、コミュニティに関する、以下の内容だろうか。

Ⅰ 国土・国益を守り抜く-伝統・誇り・価値の継承
9.防災事業の一層の強化
○大地震や異常気象など予期せぬ災害から、国民の生命、財産を守る為、国民新党は学校、病院の耐震化の推進、電線地中化、河川整備や砂防事業の一層の充実を図ってゆきます。
Ⅱ 経済成長による財政健全化-景気回復に全力投球
7. 「いきいき地方復活交付金制度」の新設
○地方経済の再生の為、地方交付税を一層充実させ、更に「いきいき地方復活交付金制度」(年間3兆円程度)の新設を図ります。本制度により懸案となっている学校・病院など公共施設の耐震化、電線地中化、上下水道・浄化槽の施設更新、木製ガードレールの設置など、地域密着型公共事業への転換で地方を元気にします。
Ⅲ 郵政改革のゴールは本物の地域力-安全・成熟の国土形成
6.郵政施設を拠点とした防災、介護サービスの提供
○高齢化が進む地方において、郵便局を核とした防災情報の提供や高齢者の安否確認、「かんぽの宿」 等における介護サービスの提供を行い、地域における安心・安全の拠点化を推進します。
Ⅳ 小泉・竹中改革の抜本的見直し-格差の解消、地域の再生
5.中高齢者層の社会参加を推進
急速に少子高齢化社会が進み行く今日、これまでの我が国の成長、地域の発展を支えてこられた高齢者の方々の社会参加のあり方が問われています。国民新党は定年制度の延長、シルバー人材の活用、地域コミュニティへの支援など を一層推進し、我が国を支えてきた高齢者パワーで活力ある地域社会を作ってゆきます。

 個別の事業や政策が並んでいるわけだが、これら全体をみても、どういう都市・地域像をイメージしているのかは、ちょっと見えにくい。

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■みんなの党
 「アジェンダ2010成長戦略」の中で、都市計画・まちづくりに関連するとみられる内容は、以下の3項目くらいか。

Ⅱ 世界標準の経済政策を遂行し、 生活を豊かにする!
1.未来を切り拓く「経済成長戦略」を遂行する
⑭「全額税額控除」の導入等寄付税制の拡充などによりNPO活動等の公益活動を活性化。
Ⅲ「地域主権型道州制」 の導入で格差を是正する!
1.地方自治体へ3ゲン(権限・財源・人間)を移譲し、地域のことは地域で決める
④地方自治体が行う事務に対する国の「義務付け・枠付け」を廃止し、自主立法権、課税自主権、住民参加などを充実し地方政府を確立。
3.平成の農地改革で農業を地域の基幹ビジネスにし、食糧自給率を向上させる
①米の減反政策(生産調整)を段階的に廃止するとともに、農地転用規制( 「ゾーニング」=土地利用規制の導入など)を徹底、耕作放棄地の有効活用を図る仕組みを確立。

 一つ目はまちづくりには関係してくるだろうが直接的なものではなく、二つ目は条例による自由な規定を認めるものと考えれば、都市計画制度の運用にも係わってこよう。三つ目は、農地という土地利用をゾーニングの中で位置づけると読むならば、都市計画制度に踏み込んでいるといえよう。

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■新党改革
 「新党改革の約束2010」では、「住宅・都市政策」という項目が立てられているが、中身は住宅の話が中心であるので、内容の紹介は住宅政策編に譲る。この他に「超高層縦型都市」という項目があり、内容は以下の通りである。

計画11:世界最高の暮らし
□超高層縦型都市
○東京や大阪は世界的な大都市ですが、先進国の大都市との違いは、容積率です。日本で最も容積率が高いのは、東京都港区の300%。これは、平均3階建てになることを意味します。一方、ニューヨークのマンハッタンでは、この数字は1400%。日本は国土が狭いにも関わらず、有効に土地利用を出来ていないことが分かります。
○土地利用を高め、生活を充実させるために、都市圏の中心部を、超高層縦型都市に大改造します。マンハッタンのように、超高層ビル、超高層マンションが林立する街へ。高層化すれば緑地も増やせるので、ヒートアイランド現象を和らげることができます。一つの土地利用者が多くなるので、住宅価格もぐっと安くなります。多くの人が、割安に都心部に住居を構え、1時間以上もの通勤が必要なくなります。

 ここまで具体的な都市の空間イメージをマニフェストに書くというのは、大変特徴的である。イメージとして若干古いという感じがするのは否めないが、それでもここまで明確に書くのは(この主張に賛同するかどうかは別として)踏み込んでいるものと評価できよう。
 この他、都市計画・まちづくり分野に関係しそうな内容としては、以下の大きく2つの項目が挙げられる。

改革その2:日本経済の復活
計画6:地方分権
□一国二制度、大阪特区構想
○廃県置州による地方分権の実現は、憲法改正を行わなければ実現に踏み切ることはできず、これには、相当な時間を要します。
○本格導入の前段階、革命的な実験の場として、特区を設けます。地域が責任を持って、独自のルールに沿った制度・行政モデルを容認し、新たな国の活性化モデルとする特区です。これは、日本国内に2つの制度があるということで「一国二制度」と言えます。
○この第一弾として、知事が賛同している大阪府で実践します。「大阪特区」では、税率や規制も大阪府が決めます。「大阪特区構想」を通じて、大阪を元気にし、その元気を他の地域にも伝播させ、日本を元気にします。
改革その4:安心して暮らせる社会
計画9:70歳現役社会
□長屋の声かけコミュニケーション、祖父母力の強化
○地域再生の鍵は、かつての長屋が持っていた「声かけ」によるコミュニケーションの復活、おじいちゃん、おばあちゃんによる地域再生(祖父母力の強化)だと考えています。母親が忙しくて夕食の準備が出来ないときには、近所の家で食べさせてもらう。子供が夕方歩いていると、ご近所さんが帰るよう促してくれる。買い物に行けない高齢者のために、隣家の子供がお使いに行く。おじいちゃん、おばあちゃんがパトロール隊を結成し、孫の安全を守る。
○この長屋の声かけ、祖父母力をキーワードに、地域コミュニティを再生させる原動力とします。

 前者は「大阪」としているところに若干政治的な意図も感じるが、特区で「一国二制度」を実験するという姿勢は、やはり踏み込んだものといえよう。後者は地域コミュニティの話で、既に各地で取り組まれている話で新しくはないが、それでもこのような形で書くところは特徴的である。

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■たちあがれ日本
 「政策宣言2010」の中で、都市計画・まちづくりに直接言及したものはない。関連がみられるものとしては、以下の2項目が挙げられよう。

【5】強いふるさと
1. 山と海を守り、里を守り、治安を守る
②自然共生型のエコ公共事業
・自然と共生した世界最先端の美しい国土をつくっていくことが日本の新たな強みです。道路財源の一部を「環境税」に振り替え、その税収を活用して新たな自然回復事業、つまり「エコ公共事業」を全国で実施していきます。
⑥地域力で「空き交番」なしへ
・安全な社会のために「空き交番」全廃へ、警察官増員とともに、自治会、消防団、NGO、学生など「地域力」をフル活用して対応していきます。

 前者は具体的にどのようなものかのイメージは掴みかねるが、後者は「交番」を軸に地域力を高めるとの発想であり、社民党や国民新党が掲げていた「郵便局」を核とした地域再生と通じるものがあろう。

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 以上見てきたが、やはり都市計画に直接言及した政策はほとんどないのが実情のようである。唯一新党改革が具体的な都市像に触れているが、その他ではどういう都市を目指そうとするのかのイメージもみえてこない。そのあたりは、各地域で決めていけばよいということなのかもしれないが。

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住宅政策の観点から2010マニフェストを読む:その他政党編

 民主党、自民党、公明党、共産党、社民党と続けてきたが、残る政党についてはまとめて整理する。政党の規模で扱いを変えているわけではなく、住宅政策に関するまとまった記述が見られないため、一括して扱うこととしている。以降では、5/31時点での国会議席配分順に、国民新党・みんなの党・新党改革・たちあがれ日本の4党についてみていく(新党日本はマニフェストがみられないので対象外とした)。

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■国民新党
 「2010政策集」が出されており、前半が「概要」を示す形、後半は「政策集」として詳細な項目が並んでいる。前半も後半も基本的には内容は同じなので、より詳しい後半の「政策集」をみよう。この中で住まいに関連する内容としては、以下の2項目が挙げられる。

Ⅱ 経済成長による財政健全化-景気回復に全力投球
5.中小企業活性化から日本復活
○昨年度成立した中小企業や住宅ローン等の支払猶予制度を経済が本格的な回復基調に戻るまでの間継続すると共に、貸し渋り・貸し剥がし対策を強化します。
Ⅳ 小泉・竹中改革の抜本的見直し-格差の解消、地域の再生
3.改正障害者自立支援法の一層の充実
○(前略)今回の法改正により応能負担の原則が明示され、発達障害者がサービスの対象に加えられた事、またグループホーム、ケアホームへの助成制度が加わった事や家族支援が強化された事などは非常に有意義であったと考えられます。国民新党は今後の改正法案の施行状況を丁寧に確認しつつ、応能負担の更なる徹底、サービス範囲の拡充を図ってゆきます。

 前者は景気回復のための住宅ローンの支払い猶予であって住宅そのものには触れておらず、後者は改正のポイントを示すだけで今後の方向性として住まい関係を論じているわけではない。いずれにしても、住宅政策自体は語られていないわけである。

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■みんなの党
 「アジェンダ2010成長戦略」で政策が示されており、この中で住宅に関連する内容は、以下の2項目である。

Ⅱ 世界標準の経済政策を遂行し、 生活を豊かにする!
□経済成長戦略で雇用を増やす
2.格差を固定しない「頑張れば報われる」雇用・失業対策を実現する
③雇用保険と生活保護の隙間を埋める新たなセーフティーネットを構築。雇用保険が切れた長期失業者、非正規労働者等を対象に職業訓練を実施。その間の生活支援手当の給付、医療保険の負担軽減策、住宅確保支援を実施。
□「生涯安心」 「誰でも安心」のセーフティーネットを構築し、生活崩壊をくい止める
1.病院崩壊、老人ホーム崩壊、年金崩壊を防ぐ
(医療・介護)
④療養病床削減計画は凍結し、療養病床、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、在宅ケア、高齢者住宅などの役割を再検討し、高齢者の視点に立った総合的な高齢者福祉政策を実現する。

 前者は失業時の一時的な対応とみられ、住宅セーフティネットそのもののあり方について触れているわけではない。後者は「役割を再検討」とあるが、具体的にどういう方向で進めるのかは述べられていない。

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■新党改革
 「新党改革の約束2010」という形でまとめられている。もう一つ同じタイトルの「要約版」もあるが、こちらは政策の項目名が並ぶだけで中身は説明されていないので、前者の内容を見ていく。住まいに関連する内容としては、以下のものが挙げられる。

改革その4:安心して暮らせる社会
計画9:70歳現役社会
□医療・介護のデーターベース公開、高齢者住宅
○また、自分らしい老後のライフスタイル実現の拠点となる高齢者向け住宅について、中古住宅の活用などにより供給数を増やし、入りたい人の希望が満たされるようにします。
計画11:世界最高の暮らし
□住宅・都市政策
○家族形態は時とともに変化します。結婚し夫婦二人の生活が始まる。子供の誕生。子供が成長して独立。また夫婦二人の生活に戻る。高齢になれば、広い一軒家の掃除も大変になります。
○これまでの住宅・都市政策は、持ち家政策一辺倒でした(全国の持ち家率は61.2%)。しかし、ライフサイクルを考えると、賃貸住宅を充実させ、生活に合わせて住宅を選ぶ形に切り替えることが国民の豊かさに繋がります。少子化が進んでいるので、余った家の処分も問題となります。
○一方で、国民の持ち家志向も強いものがあるので、持ち家・賃貸いずれでも対応できるよう、格安で良質の賃貸住宅を提供します。そのため、都市・住宅における政策・規制等の徹底した見直しを行い、国民の豊かさに直結する改革を断行します。

 ここまでみてきた他党とは異なり、「住宅政策」が独立した項目立てとなっている。前半の「高齢者住宅」について具体の供給策は書かれていないが、「中古住宅の活用など」というところをみれば、公共的なものをつくるというよりは、民間供給を促進するものと考えられる。後半の「住宅政策」部分も同様であり、賃貸住宅の充実を掲げているが、公的賃貸を増やすというよりは、規制緩和等によって民間供給を促進することが考えられているのだろう。

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■たちあがれ日本
 「政策宣言2010」という形でまとめられており、「原案」と「政策資料カラー版」の2つがあるが、書かれている内容は同じとみられる。住まいに関連するとみられる内容としては、次の事項が挙げられる。

【1】強い経済
2. 医療・介護・保育で300万人の新規雇用を
①医療・介護・保育分野で新規雇用拡大
課題2:施設不足→規制緩和で介護施設・子育て施設を、公設民営や小規模多機能施設という形で増やしていきます。
【2】強い財政
1.戦後最大の「税制革命」が日本を強くする
④贈与税・相続税
・住居用に、贈与税非課税枠(現行4000万円)を5000万円まで拡大します。
3.次世代に迷惑をかけずに医療や年金の「安心」を強くする
[1]医療・介護
②「介護難民」の解消
・グループホーム、小規模多機能サービスを拡大します。
③独居高齢者に対する住宅保障
・「最後まで住み続けることができる住まい・地域」へ制度改革を進めます。
【5】強いふるさと
1. 山と海を守り、里を守り、治安を守る
①「地域力」を引き出す「ふるさと減税」「孫カワ減税」
・「孫カワ減税」も実施します。孫への学資、結婚資金、住宅資金など「未来型贈与」については贈与税を非課税化します。

 整理すれば、(住宅系)施設の整備による介護難民の解消、高齢者の住宅保障、住宅関係の贈与税の緩和、の大きく3点となるだろうか。税に関しては具体の数字や名称も出ているが、その他の2項目については具体的にどのようにするのか、方向性がみえるような記載ではない。

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 これらをみると、「新党改革」は住宅政策を項目立てしているが、課題として挙げられている感じで具体の提案としては弱いと言わざるを得ない。その他の党では、経済活性化のため住宅を利用するという発想と、高齢者向け住まいの整備という課題が述べられる形であり、住宅政策全体をどう考えるのかは示されていないといえる。

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Jun 28, 2010

都市計画の観点から2010マニフェストを読む:社民党編

 続いて、社民党の都市計画編を。
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■社民党
 住宅政策のところでまとめたように、社民党では「ダイジェスト版」と「総合版」の2つを出している。総合版を整理したのがダイジェスト版だが、都市計画関係については両者の間には微妙に違いがあり、総合版に書いてあるからといってダイジェスト版に項目が挙がっているわけでは内容もみられる。

 まず「ダイジェスト版」であるが、都市計画に直接関連するような項目はみられない。あえて挙げるとするならば、まちづくりや開発に関係する、以下の内容だろうか。

再建5:地域
○地方に権限と財源を移し、真の「地方分権」を推進します。
○NPO法・NPO税制を抜本改革し、NPOを支援します。
再建7:みどり
○情報公開や住民参加の徹底で、無駄なダムや道路などの公共事業を徹底的に見直し、乱開発を見直します。

 一方の「総合版」では、「再建5:地域」などにおいて、都市計画に関連する以下の内容がみられる(長文のため一部省略)のだが、「ダイジェスト版」にはこれらの項目は全くみられない。必要な政策としては位置づけるが、重要視はされていないということであろうか。

再建5:地域
2.地方再生
○公共投資や社会資本投資によって得られる開発利益を自治体に還元する制度を創設します。
○地域社会全体の財産としての「歴史的環境」 (すぐれた「町並み」や「景観」など)を守り、再生します。産業遺産を観光資源として活用します。民謡・民話・生活技術など民衆文化の担い手に対する助成・育成策を強化します。
○建築の質を高め、社会を豊かにするため、建築物を社会資産とみなし、建築主・所有者の財産権と周辺の環境権との調整の原則を示すような「建築基本法」の制定をめざします。
○地域の合意を重要視して街づくりを進めようとする自治体や市民の努力を大切にします。この間の規制緩和が地下室マンションや超高層建築物等を可能にし、住環境破壊を招いています。まちづくりに係る法制度を分権・自治の観点で見直すとともに、条例で的確な規制ができるようにします。
○過疎地域の振興を図るとともに、限界集落(住民の減少と高齢化がすすみ、6 5 歳以上が半数以上になり、冠婚葬祭など社会的共同生活の維持が困難になっている集落)をはじめとする集落対策等を総合的に推進するため、新たな過疎対策法を制定します。
9.災害対策
○中心市街地の再開発、住宅密集地の再開発でも虫喰い状態の土地を積極的に買い上げ、都市公園整備、緑の空間の確保を優先課題として取り組みます。電気・電話等の系統の多重化、避難場所や消防水利の整備、オープンスペースの活用等による災害に強いまちづくりを計画的に推進します。災害時の情報システムの整備、食料・医薬品の備蓄、地震観測・研究の強化をすすめます。
○市街地での「無電柱化」率は一割強にとどまっていますが、景観を改善するだけでなく、歩行者や自転車が通行しやすくなり、交通事故を防ぐ効果もあることから、電線の地中化、共同溝の整備も加速します。
○洪水ハザードマップなどの防災マップの普及と住民参加の防災・救援計画の策定を促進します。 「ゲリラ豪雨」災害に対応できるよう、都市水害対策を強化します。 「雨水浸透ます」を各住宅の敷地に埋め込み、水害対策とともに、都市化で枯れた地下水の再生にもつなげ、 池や川をきれいにします。
再建6:農林水産業
1.農業
○都市農業(農業産出額と耕地面積の3割を占める)の保全・振興を強め、新鮮・安全な農産物の提供、市民や子どもの農業体験の場、みどりや景観の形成、生物多様性、災害防止、温暖化防止などの機能を高めます。生産緑地制度に伴う税負担を軽減します。市民・体験農園を広げ、直売への支援、農山漁村との共存を図ります。

 「2.地方再生」では、「開発利益の還元」「建築基本法」「条例による規制」など、都市計画の制度を意識した項目がみられる。「9.災害対策」でも、「未利用土地の買い上げによる公園整備」のようなことや「無電柱化」が位置づけられており、ある程度積極的な提案がなされているといえよう。

 このほか、まちづくりに関連するような内容として、以下のものがみられる。

再建5:地域
2.地方再生
○それぞれの地域特性に根ざして経済再生をはかろうとする「地産地消」 、「地域通貨」 、「福祉事業とワーカーズコレクティブ」 、 「コミュニティビジネス」 「リビング・ウェッジ(生活保障給) 」 、都市と農村をつなぐ施策などの自主的努力をバックアップします。
4.郵政民営化の抜本的見直し
○郵便局ネットワークをNPOや自治体と連携・協力し、高齢化社会や地域コミュニティの再生のための生活拠点、地域防災や災害時の拠点として活用します。
6.市民活動支援の促進
○地域や社会の担い手としてのNPO活動を推進するため、NPO法・NPO税制を抜本改革し、NPOを支援します。認定NPO法人の要件緩和や寄付金控除などの税制改革を実態に即して行います。
○安上がりの行政のための手段としてではなく、NPOをはじめとする市民の自主的・自発的な活動と、公共サービスの担い手である「公」との連帯と協働をすすめます。
○市民が自発的に出資した資金により、地域社会や福祉、環境保全のための活動を行うNPOや個人などに融資することを目的に設立された「市民の非営利バンク」(NPOバンク)を支援します。
○「協同労働の協同組合」の法制化をすすめます。
9.災害対策
○消防機関を地域に暮らす住民の安心の拠り所として、災害の未然防止から、発生した場合の即時対応、被災者の社会復帰や救済まで、総合的に情報やサ-ビスを提供する「地域安全安心センタ-」をめざして改革していきます。
再建8:税財政
2.金融
○地域社会や福祉、環境保全に貢献しているNPOバンクについては、貸金業法による厳しい財産要件や指定信用情報機関制度の登録、運営などの諸規制を緩和します。市民活動を支え、社会に貢献する金融NPOを育成・支援します。
○ 「地域再投資法」 (金融アセスメント法) を制定し、金融機関に中低所得者、女性、中小事業者・ベンチャービジネスなどに対する一定割合の融資を義務づけ、市民の監視と需要の創造などにより地域経済・社会の発展につなげます。

 地域単位での市民・住民活動の重視、それを支えるための拠点の整備と金融的な仕組みが示されている。支える部分に関して、郵便局や消防機関の活用や、NPOバンクや地域再投資法などの具体のアイデアを出しているところも興味深い。

 以上のように、基本的な制度部分の改正によって、まちのマネジメントは地域での活動に委ね、それを支えるための仕組みも準備するというある程度一貫した発想はみてとれるわけだが、それらがダイジェスト版には全く掲載されていないという部分をみると、ここは選挙の論点にはならないと考えているようである。確かに他の党でも同様のことは言っており、他党との差別化にはつながらないのであろう。

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住宅政策の観点から2010マニフェストを読む:社民党編

 民主党、自民党、公明党、共産党と来て、今度は社民党について。
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■社民党
 社民党のマニフェストは「ダイジェスト版」と「総合版」の2つがある。いずれも「生活再建10の約束」として、10分野の政策課題に対する提案をまとめている。総合版を整理したのがダイジェスト版のようである。

 まず「ダイジェスト版」だが、この中で住まい関係に関して言及しているのは、以下の部分である。

再建1:はたらく
○雇用、 生活保護、 医療、住宅の総合相談・支援窓口を各自治体に作ります。
再建2:いのち
○国民の「住む権利」を保障します。公共賃貸住宅を増やすとともに、家賃補助を充実します。

 セーフティネットの対応の中で住宅も含めたワンストップ窓口をつくるというのが前者で、後者は住宅政策そのものを直接取り扱っている。内容は詳しいものではないが、マニフェストの概要版=主要な課題を提示したものにおいて、住宅政策を明示しているのはこの党だけとなる。なお、昨年のものにも同じ項目が挙げられている。

 続いて「総合編」であるが、前述の住宅政策に関する内容は、以下のような形で詳細に記されている。

再建2:いのち
7.社会保障としての住宅政策
○住宅こそ生活の基礎であり、 「住まいは人権」 です。「住宅先進国」 をめざし、 住生活の向上と居住の権利を保障するため、 「住宅基本法」を制定します。
○優良な公共賃貸住宅を増やします。入居資格を緩和して、低所得の若者や高中年の単身者などの入居を可能にします。居住者の不安を煽る旧公団住宅(UR住宅)の民営化に反対します。
○低所得者、中堅所得者、高齢者等に対する住宅のセーフティネットとして適切に機能しうるよう、公営住宅制度等の見直しを進めていきます。旧公団住宅や公営住宅を団地居住者にとってのみならず、オープンスペースや緑地、子どもの遊び場、地域の防災拠点など地域社会の貴重な環境資源としても活用します。集合住宅における世代間交流を促進します。
○公営・旧公団住宅については、居住者の居住の安定と社会不安の進展、空家対策等の観点から、高齢者が安心して住み続けられる家賃や若者も住める家賃へと見直します。また民間借家についても多様な家賃補助制度を導入すべきです。民間賃貸住宅の入居差別を許しません。
○雇用促進住宅の廃止をやめて、若者の雇用と住まいのために積極的に活用します。
○子どもを育てる世代、バリアフリーの住宅を望む高齢者世代など、人生の節目に合わせた住み替えを柔軟に行えるようにしていきます。
○貧困者を食い物にするいわゆるゼロゼロ物件に対する規制を強化します。

 全体には住宅セーフティネットの話であり、公共賃貸住宅の充実が柱となっている。民間住宅及び持ち家に対する記述は少ない。

 このような住宅セーフティネット関連の話は、別の分野でも以下のような形で記載されている。

再建1:はたらく
1.ヒューマン・ニューディール(いのちとみどりの公共投資)で雇用を創出します
○高齢者や若者向けの公共賃貸住宅の整備、保育所や介護施設の建設・増床、学校や公共施設のエコ改修・太陽光化・耐震化、(中略)など、将来につながる事業や、いずれ必要になる事業を前倒しで実施します。
7.職業訓練と生活費を保障する新たなセーフティネットを創設します
○雇用、生活保護、医療、住宅などの総合相談・支援窓口を各自治体に作ります。
9.職業教育訓練や、就労支援を強化します
○若者就労支援を充実させるとともに、住宅対策として、雇用促進住宅の利活用などをすすめます。
再建2:いのち
3.介護保険・高齢者福祉
(4)介護サービス基盤を整備します
○介護療養病床を全廃する計画を中止し、地域に必要な病床数を確保します。待機者が38万人にもなる特養ホームの緊急整備を行います。
6.生活保護・ひとり親家庭
○生活保護から住宅扶助と医療扶助を切り離して、それぞれを単給で活用できるように制度を改善します。ホームレスやネット・カフェ難民などに対応し、生活保護を受ける手前の支援策として機動的に運用します。

 先の住宅政策関係と同様に、公共賃貸住宅及び公的施設(特養ホーム)を充実させ活用するほか、「住宅扶助」の切り離しが明確に示されているのは興味深い。

 一方で、一般の住宅に関する記述としては、次の部分が見られる。

再建5:地域 2.地方再生
○地域住宅産業は環境にやさしく地域の雇用や経済など裾野が広い効果を持っています。循環型社会にふさわしい木造住宅建設の振興に努力します。建設技能者の育成を図るため、職業関連助成金の確保、業界全体で建設技能者養成に取り組むための建設技能者養成基金(仮称)を創設します。
○改正建築基準法施行の結果、建築確認の審査が厳格化され、住宅着工戸数をはじめ産業界や公共の建設投資も急減し、「官製不況」ともいうべき社会的な大混乱を招いています。これは、実務を知らない官僚・学者や巨大な外郭団体、天下り団体によって、現実離れの弥縫策で粉塗してきた国交省の施策の失敗といわざるをえません。安全性よりも安さや効率性を追求する異常なまでのコスト削減競争、手抜き工事等を生み出す元請-下請-孫請という重層的多重下請・ピンハネ構造、「設計」 、「施工」 、「監理」の「三権分立」の崩壊、建築士の施工業者への従属による不適正な業務や 「名義貸し」 の横行、 ずさんな建築確認 ・ 検査の実態、規制緩和・民間開放の流れといった構造的な問題に踏み込んだ抜本的な対策が必要です。改正建築基準法について、徹底的に検証し、建築確認申請のあり方を実務にあわせて見直します。適正マンパワーの確保、一級建築士の専門化(意匠、構造、設備)及び地位向上と責任の明確化をはかるようにします。また、伝統構法や大工技術の継承、木の文化の発展に配慮するものとなるようにします。
○建築の質を高め、社会を豊かにするため、建築物を社会資産とみなし、建築主・所有者の財産権と周辺の環境権との調整の原則を示すような「建築基本法」の制定をめざします。
9.災害対策
○被災者生活再建支援法について、支援金の支給限度額や住宅の被害認定のあり方、半壊世帯に対する支援等の点での改善を図っていきます。

 1点目は地域住宅産業の振興でまさしく「地方再生」に関することだが、残りの点は住宅や建築の社会的なあり方に対する問題提起である。提起はしているものの、具体的な中身についてはここからは見えないのであるが。

 全体としては、「住宅セーフティネットを支える公共賃貸住宅の重視」ということになるだろうか。比較考察は後日行うつもりだが、自民党の政策とは逆方向、公明党・共産党とは共通という感じにみえる。

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Jun 24, 2010

都市計画の観点から2010マニフェストを読む:共産党編

■共産党
 住宅政策編と同様に、「参議院選挙政策」、「政策の詳細(政策集)」、「各分野政策」の3種類についてみていく。

 「参議院選挙政策」の中には、都市計画に関連する事項はみられない。あえて挙げるならば、ダイジェスト版の「農業」の項に「都市農業、中山間の農地・集落維持への支援」との記述があるくらいである。

 「政策の詳細(政策集)」で、都市計画分野に関係する項目としては、以下が挙げられる。

3、日本経済の「根幹」にふさわしく、中小企業を本格的に支援します
(1)大企業と中小企業の公正な取引を保障するルールをつくります
○大型店の身勝手を許さないルールをつくり、商店街・小売店を活性化する
 大型店の出店等による影響を事前に調査する「大店・まちづくりアセスメント」を義務づけるとともに、「まちづくり3法」の抜本改正をすすめます。「フランチャイズ適正化法」を制定し、加盟店の自営業者としての営業と権利をまもります。
4、農林漁業の再生―――食料自給率の向上めざして農政を抜本的に転換します
(5)都市農業、中山間の農地・集落維持にたいする支援を強化します
 都市の農業は、都市住民にとって、新鮮な食料・農産物を消費者の食卓に供給するもっとも身近な存在です。都市計画に農業・農地を位置づけ、現に農業が営まれている農地の相続税・固定資産税は、農地課税・農地評価を基本とし、作業場なども農地に準じた課税とします。(後略)

 「まちづくり3法」の改正や、都市計画(法か)で農業・農地を位置づけるという、ある程度具体的な指摘がなされている。前者の話は公明党も位置づけており、後者の農地の話は自民党及び公明党も指摘していることであるから、この部分で共産党ならではの特徴がみられるというわけではない。

 「各分野政策」で都市計画分野に関連する内容としては、次のような項目がみられる(文章が長いため一部編集を行っている。なお、冒頭に数字が付いているのが「分野名」である)。

■4.農林漁業・食料
◎都市づくりに農業を位置づけ、農地税制を抜本的に改めます
・都市内の農業と農地の存続を否定する現行の都市計画制度を見直し、農業を都市づくりの大事な柱に位置づける。
・「都市農業振興法」(仮称)を制定し、直売所、地産地消、学童農園、体験農園などの取り組みを支援する。
・当面、生産緑地の要件を緩和し、相続税納税猶予の制度を維持し、市民農園や屋敷林などにも適用する。
■5.税制
◎社会情勢の変化に対応した税制改革をすすめます
・都市計画区域内農地への宅地並み課税の廃止をめざし、当面、生産緑地指定の要件を緩和し、追加指定を広げる。
■7.環境
◎ごみの“焼却中心主義”から脱却し、ごみを出さないシステムを製造段階から確立します
・2009年に改正された土壌汚染対策法では、 3000平方メートル以上の土地を改変する場合に調査を義務づけることなどが盛り込まれたが、依然として、法改正以前に廃止された事業所には適用されないなど不十分なものになっている。操業中の工場敷地や、工場敷地を別の工場に売却した場合にも、調査を義務づけるよう改正すべきである。
◎大型開発による環境破壊をやめさせ、生物多様性をまもります
・広島県福山市の鞆(とも)の浦は、一部を埋め立てて橋を架ける計画に、地元住民が「歴史的な景観が破壊される」として、県知事の埋め立て免許差し止めを求めて提訴し、昨年10月、広島地裁は差し止める判決を出した。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関で世界遺産の選定について勧告している国際記念物遺跡会議(略称イコモス)のグスタボ・アローズ会長も昨年 11 月、埋め立て・架橋計画について「(歴史的な景観にとって)破壊的なことだ」と述べ、改めて計画の変更を求めた。差し止めに不服な広島県は控訴したが、貴重な景観を維持するためにも、こうした無謀な計画は、きっぱり中止すべきである。
■24.住宅・マンション
◎住宅の改善、住環境の保護
・都市再開発や土地区画整理事業などまちづくりへの住民参加をすすめ、「住民が主人公」のまちづくりを支援し、住環境や景観、コミュニティーを守り、改善する。それを目的・基本理念として、住民主体の計画づくりや許認可制度を軸にした「都市計画法」の改正や「建築基本法」の制定をめざす。
■25.防災・安全のまちづくり・過疎対策
◎災害に強いまちづくり、国土づくりをすすめます
・長周期地震動や地盤の液状化などへの対策を強化し、被害を最小に抑える取り組みをすすめる。
・災害対策を無視した開発行為の規制など、まちづくりそのものを、開発優先から、防災を重視した住民参加型に転換する。
・開発や土地利用の変更にあたって、災害に対してどのような影響があるかを事前にチェックする防災アセスメントを導入する。
◎過疎地における生活維持・地域活性化のための対策を強化します
・漁民や山村住民による流域の共同管理、棚田や森林の保護・育成、伝統文化の継承で、都市住民との交流・共同を広げる。

 農地の保全とそのための税制、過疎地の問題は他党とも共通するが、その他の項目は独自性が強い。「環境」での土壌汚染や歴史的景観の問題(編集は最小限にとどめて長めに引用している)、「住宅・マンション」及び「防災・安全のまちづくり」で示されている住民参加型の規制の発想などは、他の党のマニフェストでは指摘されていない事項といえる。

 このようにみれば、根底のところでは、現行の都市計画の発想や制度の大幅な方向転換を求めていると読むことができ、その点では昨年の民主党のものとも通じる部分があるが、方向性が明確に示されているとはいいがたい。おかしい部分は指摘しているのだが、ではどうするという点の主張は弱いようにもみえる。

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住宅政策の観点から2010マニフェストを読む:共産党編

 4党目の共産党について、住宅政策の観点からみる。
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■共産党
 大きく3つのものが示されている。「参議院選挙政策」とその内容をコンパクトにした「参議院選挙公約(ダイジェスト版)」、「政策の詳細(政策集)」、そして「各分野政策」である。それぞれについてみていこう。

 まず「参議院選挙政策」では、住宅分野に関する事項はみあたらない。高齢者の住まう場所に(わずかに)関連するものとして、「社会保障」についての記述の中に「特養ホームなどの施設整備」があるのみである。つまり、住宅政策は主要な論点とはされていない。

 続いて「政策の詳細(政策集)」であるが、この中で住宅に関係する事項を挙げると、次のようになっている。

3.日本経済の「根幹」にふさわしく、中小企業を本格的に支援します
(2)本格的な中小企業振興策をすすめます
◎生活密着型公共事業への転換をすすめ、公契約法・条例で人間らしい労働条件を保障する
 保育所・特養ホームの建設、学校・道路・橋梁の耐震補強や維持補修など生活密着型の公共事業に転換します。(中略)自治体の住宅リフォーム支援のとりくみを応援し、「小規模工事希望者登録制度」の活用を強めます。(後略)
4、農林漁業の再生―――食料自給率の向上めざして農政を抜本的に転換します
(3)農林漁業の担い手を育成し、後継者確保のために就業援助を強めます
 (前略)他地域から移住しての就業希望者にたいし、農地や住宅の斡旋、低利資金の提供、技術・経営を身につけるための教育・研究機関の強化、就業しようとする人のための農地、林地、船などの確保に国の支援を進めます。
(7)山村の活性化と低炭素社会の実現にむけ林業・木材産業の再生をはかります
 (前略)森林・林業を再生するため、間伐助成の拡充と作業路網の整備によって健全な森づくりをすすめ、住宅への地元産の木材使用への補助、公共施設建設への地元産木材の使用などで国産材の需要を拡大し、地場産業を活性化します。(後略)
5、社会保障――「削減」から「充実」へ、政策を抜本的に転換します
(3)介護を受ける人も支える人も安心できる介護制度への抜本的見直しをすすめます
◎「介護難民」をなくすため、介護施設を整備する
 特養ホームや小規模多機能施設などの整備をすすめ、5カ年計画で、42 万人にのぼる特養ホーム待機者の解消をめざします。(後略)

 大項目・中項目もつけているので若干分かりにくいが、その大・中項目から分かるように、住宅そのものの問題が扱われているのではなく、中小企業振興策や農林漁業・林業再生策の一手段として、住宅への対応が謳われている形である。最後の介護の話も、住宅というよりは施設の拡充の話である。

 計33分野が示され、最も細かい項目が挙げられている「各分野別政策」では、「住宅・マンション」分野が独立した1項目として扱われている。なぜマンションが別立てなのかは分からないが、内容は次のようなものである(なお、文章が長いため、筆者の方で簡略化して項目立ての形へと編集している)。

◎「住生活基本法」(「住宅基本法」)の改正
・(1)国民の住まいに対する権利の規定と国自治体の責務の明確化、(2)公共住宅の質量ともの改善の明確化、(3)耐震性や居住スペースなど、めざすべき居住・住環境の水準の法定化、(4)適切な居住費負担の設定、と家賃補助制度の創設 5)国民の居住権を守るための住宅関連業者・金融機関などの責務を明確化し、市場任せでなく国・自治体が積極的に介入するなど、住宅政策を転換し、国民の居住の権利を明確にし、その保障を基本とする。
◎住まい喪失者緊急対策
・失業に伴う住まい喪失者対策「住宅手当緊急特別支援事業」について、要件と手続きの緩和、手当支給期間の延長、さらに失業していないものの、収入が低いなどのため、务悪な居住環境におかれているものに対しても支給するなどの改善を図る。
◎雇用促進住宅の全廃方針を撤回
・定期契約者も含めて入居者の声を十分に聞き、納得のいく話し合いをおこない、一方的な住宅廃止や入居者退去の強行をやめさせる。低賃金や不安定雇用などで住居を確保できない人たちの住宅対策の一環として、雇用促進住宅の新たな活用をすすめる。
◎公営住宅の改善
・公営住宅の新規建設をすすめるとともに、民間賃貸住宅を借り上げて公営住宅にするなど多様な供給方式の活用で公営住宅を大幅に増やす。
・現行の月収20万円から15万8千円への入居基準の引き下げをやめ、若い子育て世代も入居できるようにする。
・子供への居住継承は復活させる。
・「孤独死」を防ぐため卖身高齢者見守りなどをおこなう自治会に対する支援制度を強化・充実する。
・家賃も収入にあったものにし、収入が増えると不当に高い家賃を課して居住者を「追い出す」ことをやめさせる。
・期限付き入居制度(期限がくれば理由の如何を問わず契約更新をおこなわない)、入居時の資産調査などをやめさせる。
◎公団住宅(UR 住宅)の改善
・UR賃貸住宅の「民営化」を許さず、公共住宅として守り、充実させる。「削減・民間売却」方針は、白紙撤回させる。
・住み続けられる家賃にするため、家賃は近傍同種家賃制度を改め、負担能力を考慮したものにする。
・高齢者や低所得者、子育て世帯への家賃減額制度をつくるなど家賃制度を改善する。
・老朽化した団地についても、一律建て替えでなく、改修やリフォームなど多様な住宅改善をすすめ、誰もが戻って住み続けられるようにする。
◎民間賃貸住宅の改善
・ヨーロッパ諸国での施策を参考にしながら、民間賃貸住宅に居住する低所得者への家賃補助制度を創設する。この家賃補助制度によって年収 200 万円以下の約 340 万世帯への居住費負担を軽減する。
・民間賃貸住宅に暮らす高齢者や子育て世帯、「生活困窮フリーター」と呼ばれ、低賃金のために家賃が払えない若者などにたいする自治体の家賃補助、敷金・礼金など住宅確保のための初期費用貸付や相談業務など、「チャレンジネット」のとりくみを広げると共に、公的な居住保証制度を確立し追い出しや被害の撲滅を図る。
◎定期借家制度の導入に反対
・新政権は借家人の追い出しを容易にする借地借家法の改悪や定期借家制度の導入を推進しているが、こうした居住の安定確保を脅かす改悪にきっぱり反対する。
◎住宅の改善、住環境の保護
・住宅の耐震化や老朽化対策、バリアフリー化など、安全で快適な住宅をめざすリフォームを自治体として支援する。
・耐震偽装事件に象徴される欠陥住宅問題の被害をなくすために、建築確認・検査制度を民間まかせにせず国や自治体の責任を明確にし、行き過ぎた厳格運用などを改善するとともに、消費者保護、被害者救済などの制度改善をすすめる。
・「瑕疵担保責任保険」については、中小建設事業者の保険料負担を軽減する。
○分譲マンションの維持・管理への支援
・国や自治体の責任で耐震診断・改修への助成を強めるとともに、共用部分のバリアフリー化、省エネ化、アスベストの除去などを支援する。 ・自治体の実態調査や相談窓口の整備などをすすめ、マンション管理の主体である管理組合のとりくみへの行政の支援を充実する。
・大規模修繕など、マンションを長持ちさせるとりくみを支援する。
・電気、ガス、水道など、ほんらい公共がおこなう基本的サービスの居住者負担を軽減するために、行政や、電力・ガス会社などに応分の負担を求める。
・すでにいくつもの自治体が実施しているように、集会室、ゴミ置き場、遊び場などは、その公共性にふさわしく固定資産税を減免する。集合住宅の共用部分の固定資産税を減免させる。
・マンション購入時の消費者保護をすすめる。
・管理組合の理事会をなくし、マンション管理を管理会社まかせにする「新マンション管理方式」をファミリータイプまで広げることに反対する。
・「住民が主人公」というマンション管理士の育成・活用や、管理組合団体などの自主的な助け合いのとりくみへの支援、行政の相談体制の整備など支援体制を充実させる。
・既存住宅は貴重な社会的資産であり、ストック重視の時代にふさわしく、従来型の「建て替え」でない、既存建物や団地の抜本的改修をはかるマンション「再生」を支援するために、法整備や助成の充実などにとりくむ。

 などと多数の項目が挙げられているが、半分は近年の改革によって変わった部分を「元に戻す」、あるいは変わろうとしている部分を「変えない」との内容であり、残りは既に取り組まれていることを「さらに推進する」という内容と思われ、住宅政策の新たな発想や方向性が提示されているという感じではない。

 「住宅・マンション」分野以外でも、住宅に言及している項目は多数みられる。特に、住宅セーフティネットに関係するような内容が多く、以下のような内容が挙げられている(ここでも先と同様の編集を行っている。なお、冒頭に数字が付いているのが「分野名」である)。

■1.労働・雇用
◎失業者の生活と職業訓練を保障し、安定した仕事、公的仕事への道を開きます
・ワーキング・プアや失業者に、公共・公営住宅の建設や借り上げ、家賃補助制度、生活資金貸与制度など、生活支援を強め、子どもの教育費や住宅ローンなどの緊急助成・つなぎ融資制度を創設する。
■2.社会保障
◎待機者解消へ 5 カ年計画で計画的な基盤整備の取り組みを進めます
・地域の介護をささえる核となる特養ホームや、生活支援ハウスなどの計画的整備、ショートステイの確保、グループホームや宅老所、小規模多機能施設への支援など、在宅でも施設でも、住み慣れた地域で安心して暮らせる基盤整備をすすめる。国による自治体への低い数値目標のおしつけをやめ、基盤整備への国庫補助を復活・充実する、都市部での介護施設やグループホームなどの用地取得への支援など、特養ホームの待機者を解消するための、緊急の基盤整備5カ年計画をすすめる。
・この間、高齢者施設で相次いでいる火災事件の教訓を踏まえ、275 m2未満の小規模なグループホームなども含めてスプリンクラーのような初期消火設備や自動火災報知装置などを設置するために国の補助を抜本的に拡充するとともに、なによりも「火事をおこさない」ために、夜間の職員の人員配置をふやし、職員の定着をはかることなど、介護労働者の処遇改善などをすすめる。
◎医療と介護の連携をすすめます
・特養ホームやグループホームなどでも、医療行為は医療保険の適用を認めるなど、医療と介護の連携を強め、どこでも必要な医療と介護が受けられるように改善する。
◎生活保護行政の改善を
・安価で入居できる公営住宅の整備や就労支援など、生活支援を強める。
◎保護基準・給付の抜本的改善を
・生活保護の給付は、老齢加算の廃止や、持ち家を持つ高齢者に不動産を担保にお金を貸し付けて、それを使い切るまでは保護を受けさせない「要保護世帯向け長期生活支援資金=リバースモーゲージ」導入など、さまざまな改悪にさらされてきたが、これらの改悪された制度を元に戻す。
・生活保護受給者を食い物にした「貧困ビジネス」、住居や食事を実態とかけはなれた高額料金で提供し、さまざまな名目をつけて保護費をほとんど“ピンハネ”する悪質業者や団体の野放しを許さず、実効性ある規制づくりに取り組む。
■3.子ども・子育て
◎住宅、生活、出産費用への援助など若い世代への支援をつよめます
 公共住宅の建設や「借り上げ」公営住宅制度、家賃補助制度、生活資金貸与制度など、国や自治体による支援を特別につよめる。
◎母子家庭・父子家庭への支援をつよめます
・保育所の増設をすすめ、ひとり親家庭が安心して優先入所できるようにする。安価で良質な公共住宅を供給する。
■10.高齢者
◎介護保険制度の見直し
・特別養護老人ホーム 42万人の待機者を解消するために、国の財政支援を大幅につよめ、施設整備を緊急重要課題として推進する。小規模・多機能の宅老所、グループホームが地域にきめこまかくととのえられるよう、国と自治体の財政支援をつよめる。
◎高齢者むけ住宅の増設
・住宅のリフォームがすすめられるよう、介護保険の住宅改造費を拡充するとともに、自治体の住宅改造助成制度の新設・拡充をはかる。
・高齢者むけケア付住宅・施設の整備を急ぐ。
・公営住宅や UR(住宅都市再生機構)の賃貸住宅の建設をふやし、高齢者むけ家賃減免制度の拡充をはかる。
・民間賃貸住宅に暮らす高齢者への自治体の家賃補助制度の普及をすすめる。
■11.障害者・障害児
◎事業体系を再検討し小規模作業所と地域活動支援センターの緊急支援を
・入所型の施設や「医療的ケア」を必要とする人たちへの支援策を含め、グループホームなど暮らしを支える多様な選択肢を整える。
◎精神障害者の支援を拡充する
・精神障害者が地域で安心して暮らせるよう、医療、福祉などの抜本的拡充をはかる。(中略)精神障害者の相談支援活動や住まいの確保をすすめる。
■13.若い世代
◎若者が安心してくらし、結婚・子育てできる環境を整えます
・家賃補助、公共住宅建設や生活資金貸与など、若者の生活支援を強める。 「派遣切り」によって青年が仕事も住居も失うという現状の打開は急務です。「人間らしく働けるルール」の確立とともに、国民の居住の権利の明確化、公共住宅の質量両面での改善など、住宅政策の抜本的な改善が必要です。当面、住宅喪失者に対する緊急策として公営・UR 住宅、雇用促進住宅を供給するとともに、初期費用や家賃の軽減、入居期間を再就職できるまでとするなどの措置をとり、一刻も早く正常な生活が営めるよう公共的支援を強める。
■28.いのち・人権の尊重
◎性的人権を守ります
・性別や性自認、性的指向を理由とした、就労や住宅入居などのあらゆる差別をなくし、生き方の多様性を認め合える社会をつくる。(中略)公営住宅、民間賃貸住宅の入居や継続、看護・面接、医療決定の問題など、同性のカップルがいっしょに暮らすにあたっての不利益を解消するため力をつくす。

 いわゆる“住宅弱者”の立場にある人々に対する対策が幅広く並んでおり、その中では全体に「公的住宅」の役割を重視している様子がうかがえる。

 この他、住宅に関連する政策としては、次のものがある。

■5.税制
◎人的控除廃止に反対し、課税最低限の引き上げなど、所得課税の減税をはかります
・「住宅は福祉」の観点に立って、家賃に関する税の控除制度の創設をはかる。
◎社会情勢の変化に対応した税制改革をすすめます
・集合住宅の共用部分の固定資産税を軽減する。
■25.防災・安全のまちづくり・過疎対策
◎被災者への支援を強化します
・被災住宅の被害判定に関して、居住者の立場にたった被害判定の基準とすること、総合的判定を可能とする体制を確立することが不可欠と考える。同時に、市町村で10世帯以上の住宅全壊被害などとする対象災害や「全壊」「大規模半壊」などに限定された支援対象世帯などを見直し支援の対象を抜本的に広げること、支給限度額を住宅再建にふさわしい額に引き上げることなどが必要である。
・災害救助法の運用については、被災住宅の応急修理や障害物の除去など、適用に必要な要件を緩和するとともに特別基準による基準額や適用期間の延長など被災の状況に見合った全面的な活用を追求する。
◎災害に強いまちづくり、国土づくりをすすめます
・地震による被害を最小限にくい止めるうえで、学校などの公共施設や緊急輸送路沿いの住宅などだけでなく、病院や大規模集客施設をはじめ宅地を含めたすべての住宅の耐震診断と耐震補強を計画的にすすめることが不可欠であり、そのために設置者・開発者のとりくみを促すとともに、国自身の計画を実行する責任を明確にした体制の確立と支援措置を強める。
◎過疎地における生活維持・地域活性化のための対策を強化します
 作業道の整備や、所有者不在の森林伐採を公共事業として進め、住宅や公共施設の建設での地元産材利用に国が助成するなど、林業の活性化を進める。

 このように、とにかく多様な内容が並んでおり、昨年のものよりは住宅分野の扱いがかなり充実している。しかし前述したように、上位の資料では記載されていないことからすれば、政策として重点的な扱いをされてはいないわけであり、重要性は認識しており個別政策としては多数並べておくが、選挙の争点にはならない、ということであろうか。

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Jun 23, 2010

都市計画の観点から2010マニフェストを読む:公明党編

 民主党自民党に続いて、公明党の都市計画に関するマニフェストの内容をまとめる。
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■公明党
 住宅政策の場合と同様に、「マニフェスト2010(要約版)」≒「マニフェスト2010(完全版)」の前半(「主要4政策」と「重要政策」)と、「マニフェスト2010(完全版)」後半の「政策一覧(分野別)」の大きく2つに分けて、内容を整理する。

 「主要政策」「重要政策」の中で、都市計画に関して直接的に触れている項目はない。「重要政策」の農業に関連して、以下のような記述がみられるくらいである。

◎秩序ある農地利用の推進
○優良農地の保護と秩序ある土地利用を推進するために、境界の明確化と共有化を進め、更なる運用体制の充実を図ります。
◎都市農業の振興
○都市にあって多面的な機能を担う都市農業が持続可能なものとなるよう、都市農業振興法の制定を検討します。
○生産緑地における現行の相続税の納税猶予制度は維持します。
○都市近郊の市民による都市農園ニーズの高まりに対応するために、市民農園・農業体験農園の整備を推進します。

 「政策一覧(分野別)」で都市計画分野の課題を直接扱ったものとしては、以下の内容がみられる。

◎都市再生、コンパクトシティの推進
○都市基盤のインフラ整備や、地域の特性を生かしたソフト面の整備を支援します。また、優良な民間都市開発を支援するため、民間資金やノウハウを活用して都市再生・地域活性化関連施策を推進するとともに、政府系金融機関ならびに民間都市開発推進機構による資金繰り支援を実施し、事業の活性化を促します。
○医・職・住・遊など日常生活の諸機能を集約したコンパクトシティを推進し、歩いて暮らせる安心で快適な生活圏の形成と低炭素化を図ります。
○歩行者、自転車、自動車の安全な通行環境を確保するため、道路空間の再配分等により自転車専用の走行空間を新たに1,000路線で整備するともに、駐輪場の整備を図るなど快適な自転車利用の普及に努めます。
○市街地幹線道路、歴史的町並保全地区、観光地などの無電柱化事業に取り組みます。併せて沿道の植樹を進めます。
◎新たな交通総合システムを構築
○道路に対する国民ニーズの多様化を踏まえ、コンパクトなまちづくりを推進するとともに、自動車中心の道路の在り方を転換し、歩行者や自転車が安全・快適に通行できるよう、既存道路の歩行者専用道路への転換、トランジットモール(一般車両を制限して歩行者・自転車・公共交通機関に開放された道路)等の新しい専用道路概念の導入など生活に密着した人間重視の道路整備を推進します。
◎防災・減災対策を強化
○地球温暖化にともなう気候変動による集中豪雨や土砂災害、風水害、地震、津波・高潮、豪雪対策など防災・減災対策を推進、強化します。
○海抜ゼロメートル地帯等における海岸保全施設の老朽化・耐震化対策、中小河川の治水対策、土砂崩れ対策、緊急物資の輸送に資する臨海部防災拠点の整備を推進します。
○局地的集中豪雨(ゲリラ豪雨)などによる洪水予測の強化や情報伝達の迅速化を図るとともに、避難経路確保や緊急災害対策派遣隊を拡充・強化します。また、被災者生活再建支援法等、災害関連法制の一元的運用にむけた体制を構築します。
◎地域コミュニティーを担う商店街を応援
○地域コミュニティーの再生や地域経済の振興を図るため、中小小売商業振興法や地域商店街活性化法、中心市街地活性化法などの関係法制を抜本的に見直し、ソフト・ハード両面にわたる商店街ならびに中小小売商業者への総合的な支援の拡充を図ります。
○地域コミュニティーを担う中核的存在である商店街支援のため、低炭素社会や安心・安全、少子高齢化などの地域社会の課題に対応する商店街の取り組みを支援する中小商業再生事業予算の確保と増額を図ります。
○空き店舗対策などの商店街整備事業に取り組む商店街振興組合等に土地を譲渡した場合の特別控除の適用要件の緩和を図ります。
○空き店舗を活用した地域物産展の開催や子育て支援施設の設置をはじめとした地域住民に役立つ取り組みの支援など、商店街を地域コミュニティーの顔として住民が憩える場所に再生します。

 昨年と同様に、、「都市再生」「コンパクトシティ」「安全安心」「商店街活性化」などの今日的なテーマが並んでいる。書かれている内容も、民主党自民党に比べればより具体的ではあるが、すでに取り組まれているものの記述が中心で、今後どのようにしていくかという新しい方向性が出ているというわけではない。

 一方で、地域や住民・市民による「まちづくり」に関連しそうな内容としては、次のようなものが挙げられる。

◎NPO支援
○NPO法を改正し、NPOなどの非営利セクターに対する支援税制の認定要件緩和、寄付金控除制度を充実させます。
◎地域における社会的活動の支援
○少子高齢化、医療、環境問題など社会的課題をボランティアではなくビジネスで解決する活動(社会的企業)は、雇用機会の提供、地域の活性化、新たな働き方の提示等の大きな潜在力を持つ今後育成されるべき分野と位置付け、以下の取り組みを推進します。
・社会的企業の認知度を高めるためのキャンペーン活動の展開など、社会的企業の普及、啓発の推進
・収益性が高くない活動を支えるための、金融機関からの資金調達の円滑化
・大学等に専門的な教育プログラムを構築することを促すなど、社会的企業を担う人材を育成
・社会的企業の多くを占めるNPO法人による中小企業施策の活用拡大
・資金調達等を容易にするなど、国や地方自治体による社会的企業の信用力補完制度の創設
◎定住自立圏構想等の推進
○地方への人口定住を促進するため、中心市と周辺市町村が協定に基づき相互に連携する「定住自立圏構想」により圏域ごとに生活に必要な機能を確保するとともに、都市から地方への移住・交流を促進します。

 地域を重視した取り組みの推進という点では、自民党や、昨年の民主党の「政策集」とも共通する視点だといえよう。

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住宅政策の観点から2010マニフェストを読む:公明党編

 民主党編自民党編に続いて、公明党編を。なお、取り上げる順番は5/31時点での国会の議席配分数の多い順である。
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■公明党
 この党では、「マニフェスト2010(要約版)」と「マニフェスト2010(完全版)」の2つを出している。後者の「完全版」は、前半に「主要4政策」と「重要政策」が並べられており、これは「要約版」とほぼ同じ内容、後半に「2010年参院選に向けた政策一覧(分野別)」として個別の提案が多数並ぶ形である。よって、以降では「要約版」≒「完全版」の前半と、「政策一覧(分野別)」の大きく2つに分けて、内容を整理する。

 まずは前半の「主要政策」では、「新しい福祉」を提案するとしており、この中で住宅に関係する内容としては、以下がみられる。

○セーフティネット住宅100万戸供給
民間や公共住宅の空き家をリフォームし、非正規労働者や年金生活者、子育て世帯、新婚世帯などの住宅困窮者に、低家賃で提供する「セーフティネット住宅」を100万戸整備します。
○新・介護公明ビジョンの実現
公明党の介護総点検を踏まえて取りまとめた政策提言「新・介護公明ビジョン」の実現をめざします。(中略)特に、特別養護老人ホームの倍増など介護基盤の整備で入所待機者の解消や、(後略)を推進します。

 住宅弱者向けのセーフティネットが明確に位置づけられており、合わせて特別養護老人ホームなどの施設も充実するとしている。この点が触れられていない民主党のものとは異なっており、また対応は書かれているが住宅というよりは施設志向の自民党ともスタンスが大きく違うといえよう。なお、昨年のマニフェストでも住宅セーフティネットの記述はみられるが、昨年は個別の提案(公約)部分が中心だったのに対して、今回は「主要施策」に位置づけられており、より重視されているとみることもできるだろう。

 後半の「政策一覧(分野別)」でも、このような住宅セーフティネット関係の記載は多い。前述の「主要施策」で挙げられた項目の他に、直接住宅に触れたものとしては、以下のような内容がみられる。なお、「◎」が大項目、「○」が小項目の位置づけとなる。

◎ケア付き高齢者住宅の大幅な拡充
○都市部における独居高齢者および高齢者夫婦世帯の著しい増加を踏まえ、地域で住み続けることができるよう、高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)や高齢者専用賃貸住宅(高専賃)等の整備充実とともに、公共住宅や空き学校などの活用で、ケア付き高齢者住宅を大幅に拡充します。
◎障がい者の住宅確保を支援
○障がい者が安心して暮らせるための住宅を確保し、ヘルパーなどが必要なサービスを提供できるようにします。また、障がい者と親が一緒に暮らすための住宅(アパート・マンション等)を整備し、必要なサービスを提供します。
◎所得保障の充実
○「障害基礎年金」の引き上げ、グループホームやケアホームなどに入居する障がい者に対する住宅手当制度の創設、就労支援の拡大、工賃の引き上げなど、障がい者の所得保障の充実を図ります。
◎再就職支援付き住宅手当の拡充
○離職者などが再就職のための活動に際し、住民票や金融機関の口座が必要となる場合が多く、安定した住居を確保する必要があることを踏まえ、再就職のための活動を安心して行えるよう、住宅費等を支援する「再就職支援付き住宅手当」の拡充を図ります。
◎住宅セーフティネットの確保
○民間や公共住宅の空き家をリフォームし、非正規労働者や年金生活者、子育て世帯、新婚世帯などの住宅困窮者に、低家賃で提供する「セーフティネット住宅」を100万戸整備します。
○高齢者等の持ち家を借り上げて、子育て世帯等に転貸する「住み替え支援事業」を幅広く展開します。また、リバースモーゲージの普及を促進します。
○良質な民間賃貸住宅の供給や賃貸に関わる紛争の防止など、適正な民間賃貸住宅市場を整備します。
○介護サービスや生活支援サービスを24時間365日受けられるよう、ケア付きの高齢者向け賃貸住宅を2014年度までに新たに15万戸供給します。また、公的賃貸住宅団地に医療・介護・子育てなどの施設を1施設以上整備し、地域の福祉拠点として再生します。
○高齢者にやさしい街づくりを進める「安心住空間プロジェクト」を一層推進し、高齢者向け民間優良賃貸住宅や公的賃貸住宅団地等に介護等の高齢者向け福祉拠点を一体的に整備します。また、民間賃貸住宅に高齢者福祉施設を整備するための助成制度を創設します。
○保育サービス等を提供する子育て支援施設や障がい者福祉施設などが併設された公的賃貸住宅の整備を推進します。
◎公的住宅の整備促進
○地方公共団体による既存民間賃貸住宅ストックの借り上げ制度やPFI方式による公営住宅ストックの更新などにより、高齢者世帯・子育て世帯の家賃負担を軽減する住宅セーフティネット対策を強化します。
○高齢者および障がい者が居住する公営住宅のバリアフリー化率を2015年度までに100%にします。また、民間住宅についても現行のバリアフリー改修税制の充実を図るなど高齢者や障がい者が安心して暮らせる環境を整備します。
○公的住宅の家賃減額措置等を拡充し、子育て世帯や年金生活者等の居住の安定確保に向けた支援措置を実施します。また、大規模地震災害対策や孤立死問題への対応など、団地居住者と周辺住民とのコミュニティーを形成する地域交流福祉拠点を整備します。
○公的住宅への定期借家制度の導入について、既存の住民の権利と暮らしを脅かすことのないよう、理解と協力に基づき適正に運用します。

 また、住まいに関連する福祉分野での項目としても、以下のような内容がみられる。

◎必要な施設・在宅サービスの充実「多機能支援センター」の設置
○2025年までに、特別養護老人ホーム、老人保健施設などの介護3施設を倍増、特定施設、認知症高齢者グループホームを3倍増にします。また、地域の実情を踏まえ、必要な施設体系の整備・充実を図り、16万人分の拠点整備を加速化させます。(後略)
◎認知症の地域ケア体制の充実
○地域において認知症の早期診断・治療・ケア・相談など総合的な支援体制の充実を図ります。特に認知症デイサービスやショートステイの充実、訪問看護の強化など地域ケアの充実を図ります。さらに、低年金・低所得者の負担軽減を進め、グループホーム等の利用を可能にします。
◎「障がい福祉ゴールドビジョン」(仮称)を策定
○障がい福祉サービス基盤の緊急整備(グループホーム・ケアホームの緊急整備、新体系への移行支援の強化等)や現在の障がい福祉サービス従事者等の処遇改善(従事者の処遇改善に取り組む事業者への資金の交付等)、地域相談支援体制の強化(相談支援専門員や提供体制の拡充)などを盛り込んだ「障がい福祉ゴールドビジョン」(仮称)を策定します。

 これらの内容は、昨年の「2009衆議院選挙 選挙公約」とほぼ同じではあるが、より体系的に整理された印象であり、他党に比べてこの部分を重視している様子がうかがえる。ただし、昨年は記載されていた「数値目標」は示されておらず、この点は野党になったことが影響しているといえよう。

 セーフティネット・福祉関係以外でも、住宅に関連する内容の記述は多い。

◎エコ・アクション・ポイント制度を推進
○景気状況に応じて家電・住宅エコポイント事業を継続するとともに、同事業以外のエコ商品・エコ行動も幅広く対象としてエコポイントを発行する「エコ・アクション・ポイント事業」についても、本格的に全国展開し、自立的ビジネスとして定着させます。(後略)
◎低炭素の交通・住宅・地域を推進
○住宅・建築物の省エネ化を進めるため、補助金、税制、低利融資などで支援するとともに、断熱基準の義務化など建築基準法の改正を検討します。
◎中古住宅市場などの活性化
○中古住宅市場の流通量を3倍に増やします。
・リフォーム工事保険などの各種保険制度の創設
・住宅リフォーム融資制度の拡充
・中古住宅の価値を目利きする「ホームドクター(ホームインスペクター)制度」の創設
○中古住宅市場の流通促進と長期優良住宅(200年住宅)の普及などを促進するため、住宅の設計図や修繕記録などを記した「家の履歴書」の整備を図ります。
○マンション管理適正化法の拡充により、マンションの適切な管理や老朽マンション再生の促進を図ります。
○住宅金融支援機構による住宅ローンの拡充や、既往債務の返済条件の緩和、ノンリコースローン(担保不動産価値を上回る返済のない融資制度)が提供される仕組みの構築など、住宅金融の拡充で住宅市場の活性化を促します。
◎安心安全な住宅供給と生産性向上の両立
○新築や、リフォーム・バリアフリーなどの改修工事において、安心安全な住宅の供給と住宅建築市場の活性化を図るため、建築基準法の一層の整備や機動的な運用を行います。特に、耐震偽装を未然に防ぐ厳格な建築制度の確保と建設業の生産性向上の両立をめざし、構造計算適合性判定の円滑化を図るなど、建築確認手続きのスピードアップを図ります。また、住宅建築にかかる速やかな紛争処理を行う機関の設置と、詐欺対策、悪徳業者対策に取り組みます。
◎「建築基本法」の制定
○建築関係者をはじめ広く国民が共有できる質の高い建築物の整備に向け、目標や基本理念、関係者の責務を定める「建築基本法」(仮称)を制定します。
◎耐震化を加速
○今後10年間に住宅700万戸、学校や病院などの特別建築物5万棟とその他建築物50万棟について、建て替え・リフォームなどで耐震化を進め、2020年までにすべての住宅・建築物の耐震化をめざします。
◎バリアフリーの推進
○ビルやマンション等のコンクリート建築物、エレベーターやエスカレーター、遊園地の遊具施設などの建築構造体の適切な維持管理を行うため、非破壊検査技術の導入によるエコ検査の技術開発と検査体制を確立し建築物の安全を確保します。
◎省エネ住宅や省エネ建築の整備促進
○住宅投資を促す税制などにより、長期優良住宅の普及や既存住宅のリフォームを強力に促進し、住宅の長寿命化・省資源化を推進します。
○住宅・建築物の高断熱化、高効率化機器やビル用エネルギー管理システム等の導入支援、屋上緑化・壁面緑化の一体整備の推進、エコハウス・エコビルの増加、エコ改修の普及を図り、住宅・建築物の省CO2対策を推進します。

 省エネ・中古住宅・バリアフリー・耐震など、近年の国土交通省の施策で重視されている部分であり、この点については民主党・自民党とも大きく変わるものではない。

 以上のようにみると、昨年のものと同様に、高齢者などの社会的弱者向けの住宅セーフティネットの提供を中心とした政策を打ち出している点が、大きな特徴といえる。また、他党が住宅政策を明確に位置づけていない分だけ、公明党の住宅政策への関心が突出して高いようにも見える。ただし、記載された内容の多くは、すでに国土交通省等が近年取り組んでいる内容そのものでもあるといえ、このような党の方針が先の自公政権の時に反映されて実現した結果として似通っているのか、あるいは省庁の既存施策のうち自党の政策に整合するものをとりまとめたような形なのかは、判断が難しいところである。

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Jun 22, 2010

都市計画の観点から2010マニフェストを読む:自民党編

 先の民主党編に続いて、自民党に関して。なお、昨年と同様に、交通関係については扱わないものとしている。
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■自民党
 住宅政策でも書いたように、 総論の「政策パンフレット」と、各論の「政策集J-ファイル2010」の2種類がある。
 政策パンフレットの中で、都市計画に関して直接触れられている項目は、みあたらない。交通に関して「総合的な交通体系を整備」とあるくらいである。この点は、昨年の「政策集」と同様。

 「政策集J-ファイル2010」で、都市計画やまちづくりという言葉が使われている項目は、以下のものである。

75.都市農業の保全
 子どもからお年寄りまで、都市に住む方々に新鮮で安全な食料と快適な生活環境を提供している都市農業の継続と農地保全が図られるよう、今後の都市計画制度見直しの中で法律、税制などの整備と振興施策を充実します。
129.観光立国の実現
 ビジット・ジャパン・キャンペーンの高度化や入国審査の円滑化により「観光立国」を実現します。また、無電柱化の集中実施や景観に配慮したまちづくりなどによる魅力有る観光地の整備、休暇の取得・分散化、観光産業の育成により、観光を通じた地域活性化を進めます。(後略)
152.「世界一安全な国をつくる8つの宣言」による治安対策の強化
 平成20年に策定した「世界一安全な国をつくる8つの宣言」により、犯罪に強いまちづくりの推進、振り込め詐欺の撲滅、生活の安全・安心を脅かす事案への対応、凶悪犯罪への対応、サイバー空間の安全確保、組織犯罪対策の推進、銃器・薬物乱用対策の推進、テロ対策の推進、不法滞在者対策の推進、客観的証拠の収集法法の整備、死因究明体制の強化等を推進します。また、次期国会にて「地域住民等による安全で安心して暮らせるまちづくりの推進に関する法律案」を成立させ、住民パトロールなどの治安対策に邁進している方々を支援します。
177.豊かな自然環境を取り戻す仕組みづくり
 (前略)今後のわが国の街づくり・インフラ整備・地域開発においては、人口減少時代を踏まえつつ、より環境に配慮した取組みが求められます。コンパクトで人や環境に優しいまちづくり、地域づくりを進めるとともに、市街地を取り巻く鎮守の森や里山を復活・活性化させ、生物多様性の確保等を行います。これらにより、都市機能と豊かな自然環境が共存する21世紀型の持続可能な都市・生活空間をつくります。

 言葉は用いられているが、主眼は農業や観光、安全や環境の話であり、そのものを直接論じているわけではない。現在進行中の都市計画制度の見直しの動きは、75で若干意識されている様子もみられるが、それ自体は論点とはされていないようである。

 その他、都市計画に関連するとみられるものとしては、以下のような内容がみられる。

8.不断の規制改革と「グローバルトップ特別区」の創設
(中略)さらに、医療研究、サステナブル都市、国際コンテンツ拠点、自治体による国内外の企業や研究施設の誘致促進を可能とするため、財政上の措置を含め「グローバルトップ特別区」を創設します。
120.防災・災害対策
 防災ニューディール(学校・住宅地・公共施設等の耐震工事)や駅等のバリアフリーの推進・ホームドアの設置等、命を守る基盤を整備します。近年の集中豪雨の増加など自然環境の変化も考慮しつつ、大規模な地震や津波、水害・土砂災害等に備え、防災・減災対策、地震防災上緊急に整備すべき施設等の整備促進を進めます(後略)。
136.地域力の創造
 (前略)このような観点から、地域医療、公共交通、産業振興など、地域の様々な政策課題について、「集約とネットワーク」の考え方により、中心市と周辺市町村の相互連携を強化する定住自立圏構想を推進します。全国の中心市を核として圏域の形成を促進するとともに、重点投資により内需を振興し、圏域全体の経済を活性化していきます。
145.商店街の活性化
 地域住民から商店街に寄せられる「地域コミュニティの担い手」としての期待はこれまで以上に高まっている中、経営指導や商店街で起業・新業態開発への研修等のエンジェル税制を活用しての空き店舗の有効利用や公共交通機関と連携したアーケードや駐車場・駐輪場の整備、省エネ型街路灯の設置等、商店街再生に向けた意欲的な取り組みに対するソフト・ハード両面での支援を行い、高齢化や安全安心、環境等の社会課題へ配慮した街づくりと一体となった“身近で快適な”商店街づくりを進めます。駅前や中心市街地等の賑わいを取り戻すことによって、地域経済の再生だけでなく、地域のつながりを高めます。

 8や120にみられるように、他の提案でも妙に新しい言葉が使われているほか、多数の項目が並列的に述べられていて、文章として(=政策として)若干こなれていない印象も受ける。また、全体に「地域」を重視したような書き方が目立つ。これは昨年のにもみられたことだが、昨年以上に具体的なことが書かれているようである(とはいえ用語レベルであるが)。

 同様の傾向は、以下の関連項目にもみることが出来よう。

64.農林水産業の多面的機能を評価した「日本型直接支払い」の創設
(前略)また、地域やNPOなどが参加して農業、加工、介護など「地域社会を維持する事業」に取り組む地域マネジメント法人の育成を推進します。
107.地域におけるICT利活用の促進
 (前略)地域コミュニティにICT関連技術を集中的に投資して、高齢者や児童の見守り、防災情報の配信などを実施し、役立つ先進的な情報通信システムの構築、さらにそのシステムの運用のための地域における体制づくりを支援します。
138.地域を支える人材の創出
 個性豊かで誇りある地域づくりに向けて、歴史文化や気候風土といった地域資源を活かしていくのは人材の力です。地域の発想による独自の取組みによって魅力ある地域に生まれ変われるよう、地方交付税等による財政支援に加えて、民間アドバイザー派遣等の人材支援を推進します。元気なまちづくりに挑むあらゆる人材の能力を高めるため、相互交流や知識・ノウハウ習得を促進し、地域の人材力の向上を応援します。
144.地域コミュニティの連帯と再生
 弱体化した地域の絆を再生するため、町内会や自治会など地域に根ざした活動を行う団体を支援する「コミュニティ活動基本法」を制定します。また、地域や社会に貢献する活動をポイント制で評価する仕組み(有徳ポイント制度)を創ります。
147.地域で活動する団体やNPO法人の育成・支援
 「特定非営利活動法人法」(NPO法)の改正、認定NPO法人制度の大幅拡充・簡素化によって、誰もが参加しやすい社会活動・NPO法人などボランティア組織の育成・支援策に取り組みます。

 昨年のものについて書いた、「基本的には地方への分権を進め、また地域の活動を支援することで、『地域レベル』での取り組みを促す、『地域レベル』にまかせるということ」、という傾向が、さらに強まっているようにもみえる。

 全体にみれば、昨年の衆院選の際の内容とほぼ同じで、野党となったこともあって、ある程度思い切った言葉も使えるようになったというのが印象である。その意味で個人的な感想も昨年と同様であり、都市計画への関心の薄さ、都市計画の仕組みに関するビジョンの欠如、というものを感じざるを得ない。

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住宅政策の観点から2010マニフェストを読む:自民党編

 先の民主党編に続いて、自民党に関して。
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■自民党
 自民党では 「政策パンフレット」という総合的なものと、「政策集J-ファイル2010」という各論的なものの2つを出している。後者は昨年の民主党の「政策集INDEX2009」に近く、個別の政策提案を多数(271個!)並べたものである。
 まず「政策パンフレット」であるが、大きく8つの柱が立てられているが、柱の下の内容説明で住宅関係に触れている部分は一箇所もない。昨年の衆院選での「要約版」では、一応「エコ住宅」という言葉はあったのだが、今回は「住」の文字すら出てきていない。柱の「成長戦略・雇用」で住まいの確保が述べられているわけではなく、「社会保障」で高齢者の施設・住まいが、「環境」でエコ住宅が語られるわけでもない。生活の基盤となるべき住まいの問題は、このレベルでは全く考えられていないのである。

 一方、「政策集J-ファイル2010」では、271個も提案が並んでいるだけあって、住まい関係への言及も当然ながらある。まずは直接住まいに関連するものとしては、以下の項目が挙げられる。

85.国産木材の利用促進と、「直接支払い制度」の創設
 (前略)木造建築基準の見直し、瓦やい草などの国産材料を使った安らぎのある和風住宅の普及、間伐や路網整備における森林所有者の負担軽減、緑の雇用や森林組合の充実・強化、財源確保のための森林環境税の創設、農地並みの相続税納税猶予制度の創設、違法伐採対策などに取り組むとともに、厳しい環境下におかれている森林経営を将来にわたり持続可能なものとするための直接支払い制度をつくります。
127.住宅の資産価値を高め、ライフステージに応じた住まい方を推進
 住宅ストックを重要な国富として位置づけ、総合的な住宅税制・融資等支援制度、規制緩和等を通じ、住宅を資産として残せる「ストック社会」を実現します。負担力の低い若年者を含めたライフステージの各段階や多様な働き方・暮らし方に応じたゆとりある住環境を獲得できるよう、長期有料住宅(200年住宅等)の供給、既存ストックの資産価値を維持増大させる耐震・省エネ・バリアフリー化などのリフォーム、住み替え・中古流通のための市場環境整備を進めます。また、少子・高齢社会に対応し、子育て世帯や高齢者等が安心して生活できるよう、子育て施設やケア施設と住宅との併設・近接を推進するとともに、安心して生活できる賃貸住宅や2世帯・3世帯住宅の供給を推進します。
128.地方の活性化と都市生活者のゆとりを実現する移住・二地域居住の推進
 住民の流動により、地方で眠っている施設・住宅・人材の有効活用を行うとともに、都市生活者が趣味志向や価値観に合わせ自分らしい生活や「シーズン・ステイ」などを実現することにより、心身ともに健康になれる社会を目指します。自転車専用道を確保し、環境と健康に良い、歩いて暮らせるコンパクトシティ作りを進めます。
166.エコハウス化の加速
 2030年までに新築公共建築物でのエコハウス化の実現を目指し、建築物のゼロ・エミッション化を加速するとともに、断熱住宅を新築住宅の80%にするなど住宅等の省エネ化(エコハウス化)を加速します。

 127にみられる住宅政策の基本的な発想は、昨年度の「政策バンク」の内容と変わらない。持ち家の取得を中心に位置づけ、セーフティネットとしての住宅の役割には触れない形。むしろ今年の方が「持ち家主義」がより強まっているかにもみえる。85の国産材振興の観点からの木造住宅推進、128の移住・二地域居住も従来から言われている内容であり、166は「エコハウス」という表現自体は新しいが、内容は近年の国交省の政策の考え方そのままである。その意味で、新たな方向性のようなものは打ち出されていない。

 一方、上記では触れられていない、住宅セーフティネットの部分に関連する項目としては、以下の内容がみられる。

58.財政の安定化を図り、介護保険サービスの充実と保険料の抑制
 (前略)42万人と言われる特別養護老人ホーム待機者をはじめ個々の要介護者の実態に即した介護サービスを希望する全員の声に応えるため、介護型療養施設のあり方、介護保険の国庫負担、参酌標準などを見直すとともに、特養ホーム等20万床の整備や必要な施設等の整備を促進します。
62.障害者の方への施策の推進
 改正障害者自立支援法案により応能負担による福祉サービス・就労支援を推進します。併せて、障害の範囲や障害程度の適正な判断を行えるよう見直します。相談支援体制の強化、障害児支援の充実、グループホーム・ケアホームを利用する際の助成制度の創設等を推進し、また、障害者の所得保障を図るため、障害基礎年金を充実します(後略)。
63.生活に困窮している世帯の生活支援の充実
 (前略)生活に困窮している単身低所得高齢者等に対して、その実態に即した生活支援を的確に行います。また、単身高齢者や老々介護に対応した高齢者の生活の場となる養護老人ホーム、グループホームや特定施設などの制度を進めます。政策を進めるにあたっては、生活に困窮している方々の実態に精通したNPO等による支援を通じての実施を積極的に図ります。

 これらの内容からすれば、いわゆる社会的弱者への対応としては、住宅というよりは施設的なものを重視しているようであり、「施設から住宅へ」という近年みられる方向性は反映されていない。また、63などでは生活困窮世帯に対する公的住宅の位置づけは全く述べられておらず、住宅という言葉さえみられない。このあたりも昨年と同様であるが、住宅セーフティネットへの意識は低いままである。

 以上のようにみれば、自民党の住宅政策は(良くも悪くも)ぶれてはいない。全体としては住宅政策に関する関心は薄く、近年進められている「市場重視の住宅政策」をそのまま継続する、ということなのだろう。

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Jun 18, 2010

都市計画の観点から2010マニフェストを読む:民主党編

 引き続いて、「民主党の政権政策 Manifesto2010」を、都市計画的な観点から読んでみる。
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■民主党
 5ページの「強い経済」という項には、都市政策に関する項目が一つ立てられており、また観光の項に「まちづくり」という言葉がみられる。

○総合特区・都市政策
規制改革、税制の特例、事後的サポート体制の整備など必要な政策を複合的・集中的に実施する総合特区を展開し、地域を再生します。
首都圏などの大都市の活性化をめざし 「大都市圏戦略基本法」 (仮称) の制定などを進めます。
○観光
訪日観光客3000万人の実現に向けた観光情報の戦略的発信、ビザ要件緩和などを進めます。むら・まちづくりと一体の多様な観光資源を活かした魅力ある観光地づくりや「ローカル・ホリデー制度」 創設などを進めます。

 都市政策は特区と大都市が対象、まちづくりはローカルな観光地という感じで、政策対象の地域を限定的に捉えているようにもみえる。

 個別の政策項目であるが、都市計画関係に触れているものは見あたらない。関連するものとしては、「地域主権」での分権関係の話と、「交通政策・公共事業」のあたりだろうか。

9.地域主権
地方が自由に使える 「一括交付金」 の第一段階として、2011年度に公共事業をはじめとする投資への補助金を一括交付金化します。引き続き、さらなる一括交付金化を検討します。
より質の高い住民サービスが確保できるよう、福祉事務所の設置や公園に関する基準などは、身近な自治体が決められるようにします。
10.交通政策・公共事業
社会資本の維持・更新などを着実かつ戦略的に進めていくため、民間の資金、経営能力、技術的能力を活用した仕組み・手法を積極的に取り入れます。

 ここでも住宅政策の場合と同じように、昨年のものよりも情報量・具体性ともに低下している。昨年のマニフェストで書かれた「建築基準法などの関連法令の抜本的見直し」、具体的には「政策集INDEX09」で書かれていた「まちづくり法」につながるような発想も、全くみえてこない。

 一方で、19ページからの【実現したこと】の中では、都市計画に関連するものは一つもみあたらない。あえて挙げるとすれば、まちづくりに関連してくる以下の事項であろうか。

39.NPO税制の見直し
2010年度税制改正でNPOなどに関する寄付金税制の適用範囲を拡大するとともに、2011年度改正では税額控除方式を導入する方針を決定しました。

 このようにみれば、今回の選挙では都市計画・まちづくり系の話はやはり意識されておらず、またこの1年の政策の中でもあまり重視されてこなかったということが出来よう。もちろん2009年のマニフェストの発想は現時点でも活きているとは思うのだが、少なくとも明記されていないという点において、都市計画サイドの立場としては少々残念にも思える。

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住宅政策の観点から2010マニフェストを読む:民主党編

 7月の参院選に向けて、各党のマニフェストが出揃いつつある。去年の衆院選でもやったことだが、各党のマニフェストについて、私の専門分野である住宅政策及び都市計画の観点から、整理をしてみたい。まずは住宅政策から。
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■民主党
 現時点で示されているのは「民主党の政権政策 Manifesto2010」である。昨年は、「政策集INDEX2009」というより詳しいものも出ていたのだが、今回は出るのかどうか分からない(後記:今年は出されないことになったようである)。

 さて、マニフェストであるが、まず5ページの「強い経済」という項で、住宅に関する以下のような記述がみられる。

○医療・介護、農業、住宅などの新たな成長産業
日本の先端医療技術を活かした国際医療交流の促進、生産・加工・流通までを一体的に担う農業の6次産業化、住宅のバリアフリー・耐震補強改修支援などにより潜在需要を掘り起こします。
○グリーン ・ イノベーション
再生可能エネルギーを全量買い取る固定価格買取制度の導入と効率的な電力網 (スマート・グリッド) の技術開発・普及、エコカー・エコ家電・エコ住宅などの普及支援、2011年度導入に向けて検討している地球温暖化対策税を活用した企業の省エネ対策などを支援します。

 続いて、個別の政策項目で住宅に触れているのは、以下の部分のみである。

6.雇用(15ページ)
○2011年度中に 「求職者支援制度」 を法制化するとともに、失業により住まいを失った人に対する支援を強化します。

 昨年と比べると、全体に情報量は少ないし、具体性にも欠ける。バリアフリー・耐震補強・エコ住宅という持ち家向けの既存政策が示されるだけ、失業者への住まいも一時的なものという感じで、住宅セーフティネット全体を考えるという視点は感じられない。
 昨年のマニフェストでは明確に示されていた、「住宅政策を転換して、多様化する国民の価値観にあった住宅の普及を促進する」という政策目的も、今年のものからは全く見えてこない。昨年掲げられていた「建築基準法などの関係法令の抜本的見直し」、「家賃補助や所得控除などの支援制度を創設」、「定期借家制度の普及」、「ノンリコース(不遡及)型ローンの普及」などの、“勇ましい”提案も出ていない。

 なお、別途19ページには「これまで取り組んできたこと」の項目があり、昨年のマニフェストの計179の政策のうち、実施35・一部実施59・着手済み70・未着手15と報告されている。そして【実現したこと】の中で住宅政策に関する事項としては、以下のものが挙げられている。

49.住宅エコポイント
エコリフォーム又はエコ住宅の新築をした人が様々な商品・サービスと交換可能なエコポイントを取得できる「住宅エコポイント制度」を創設しました。
50.少子高齢化に対応した公的賃貸住宅
高齢者や子育て世帯への支援施設などを併設する公的賃貸住宅の整備に対する支援制度の対象に医療施設の併設を追加しました。

 こうみれば、昨年のマニフェストにおける「44.環境に優しく、質の高い住宅の普及を促進する」として挙げられた6つの項目の、その一部の内容のさらにごく一部しか実現していないということになる。これをもって「一部実施」とカウントしているのであれば、あまりに本質的ではない捉え方と言わざるを得ない。

 このようにみれば、今回のマニフェストでは住宅政策関係はほとんど意識されておらず、むしろ「退化」したようにも見えてしまう。野党のうちはいろいろと理想的な構想を示すことが出来るが、政権与党となるとうかつなことは言えないというか、実現可能なこと=現在進行形の政策しか提示できないということなのだろうか。

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