都市計画の観点から2010マニフェストを読む:比較考察編
これまでみてきた各党のマニフェストの内容を比較考察してみたい。考察で扱うのは、住宅政策と同様に、都市計画に関して一定の記述がみられた、民主党、自民党、公明党、共産党、社民党の5党とする。なお、前述の通り民主党のマニフェストには記載は少ないのだが、与党の政策を扱わないわけにもいかないので、昨年のマニフェスト及び「政策集INDEX2009」の内容が現在も生きているものとみなして、考察を行う(2009年の記述部分は薄いグレーとしている)。
これら以外の党では、都市計画の記述は非常に少ないのが実情である。住宅政策と同様に、党の規模が小さいと、ここまで手が回らないということなのかもしれない。その中でも、新党改革の「超高層縦型都市」というビジョンは、その内容の妥当性はともかくとして、注目に値するといえよう。
さて、住宅政策の場合とは異なり、各党の都市計画・都市政策に関する基本的なスタンスを示したような部分はみあたらないので、個々のテーマ毎に各党の主張をまとめてみる。
項目 | 民主党 | 自民党 | 公明党 | 共産党 | 社民党 |
---|---|---|---|---|---|
法制度 | 法体系を抜本見直し、都市計画法を全ての地域を対象とする「まちづくり法」に再編 | (記載なし) | (記載なし) | 住民主体の計画づくりや許認可制度を軸にした「都市計画法」の改正や「建築基本法」の制定 | 建築主・所有者の財産権と周辺の環境権との調整の原則を示す「建築基本法」の制定 |
都市構造 | (記載なし) | コンパクトで人や環境に優しいまちづくりを推進 | コンパクトシティを推進、歩いて暮らせる生活圏の形成 | (記載なし) | (記載なし) |
都市再生・開発 | 必要な政策を複合的・集中的に実施する総合特区を展開し、地域を再生 | サステナブル都市、国際コンテンツ拠点等を可能とするため、「グローバルトップ特別区」を創設 | 優良な民間都市開発を支援、民間資金やノウハウを活用し都市再生関連施策を推進 | (記載なし) | 公共投資や社会資本投資で得られる開発利益を自治体に還元する制度を創設 |
商業振興 | 複合建築物の建設などにより「商住一体のまちづくり」を推進 | 空き店舗の有効利用やアーケード・駐車場・駐輪場の整備等、商店街再生の取組へのソフト・ハード両面での支援 | 中心市街地活性化法等を抜本的に見直し、ソフト・ハード両面にわたる商店街への総合的な支援の拡充 | 「大店・まちづくりアセスメント」を義務づけ、「まちづくり3法」の抜本改正 | (記載なし) |
まちづくり | 情報公開と市民参加を徹底した地域主権型のまちづくりのシステムを、都市計画法や建築基準法を抜本改正することで構築 | (記載なし) | (記載なし) | 都市再開発や土地区画整理事業などまちづくりへの住民参加をすすめ、「住民が主人公」のまちづくりを支援 | 地域の合意を重要視して街づくりを進めようとする自治体や市民の努力を重視 |
コミュニティ | 地域住民同士が互助互恵の精神で行う奉仕活動を促進 | 地域に根ざした活動を行う団体を支援する「コミュニティ活動基本法」を制定、「地域社会を維持する事業」に取り組む地域マネジメント法人の育成を推進 | 商店街を地域コミュニティーの顔として住民が憩える場所に再生、社会的課題をボランティアではなくビジネスで解決する活動(社会的企業)を推進 | (記載なし) | 郵便局ネットワークを地域コミュニティの再生のための生活拠点として活用、地域通貨・福祉事業とワーカーズコレクティブ・コミュニティビジネス等の自主的努力をバックアップ |
景観・緑地 | まちづくりと一体の多様な観光資源を活かした魅力ある観光地づくり、屋上緑化と美しい都市景観をつくる「都市緑化法(仮称)」の検討 | 無電柱化の集中実施や景観に配慮したまちづくりなどによる魅力有る観光地の整備 | 市街地幹線道路、歴史的町並保全地区、観光地などの無電柱化事業 | 鞆の浦の貴重な景観を維持するため、無謀な計画を中止 | 「歴史的環境」 (すぐれた「町並み」や「景観」など)を守り再生、虫喰い状態の土地を積極的に買い上げて緑の空間を確保 |
農地 | 一筆毎に規制する方式からゾーニング規制(地域別規制)の方式を基本とする制度に転換、農業的土地利用と非農業的土地利用とを一体化した「都市・農村地域土地利用計画制度」を創設 | 都市農業の継続と農地保全が図られるよう、今後の都市計画制度見直しの中で法律、税制などの整備と振興施策を充実 | 都市農業が持続可能なものとなるよう都市農業振興法の制定を検討、市民農園・農業体験農園の整備を推進 | 都市内の農業と農地の存続を否定する現行の都市計画制度を見直し、農業を都市づくりの大事な柱に位置づけ | 都市農業の保全・振興 |
「法制度」に関しては、言及している3党とも改正や新規の制定を位置づけている。2009年の民主党の「まちづくり法への再編」がより具体的であるが、地方分権・住民主体の時代を踏まえた変更が必要という点では一致しているといえよう。
「都市構造」に関してはコンパクトシティという考え方は共通、「都市再生」も特区による地域の創意工夫の推進という点は同じようである。「商業振興」では商店街の再生に主眼が置かれ、いずれも様々な施策によって空き店舗の活用などを進めようとする発想である。その中で公明党と共産党はまちづくり3法の抜本改正という制度的な対応も位置づけている。
地域単位の「まちづくり」については、地方分権で基礎自治体に権限を委譲するとともに、住民の主体性を重視する考え方が明確になっている。合わせて「コミュニティ」施策でも、地域単位の独自の社会的活動やコミュニティビジネスを支援するというスタンスがみられる。
「景観・緑地」に関しては、歴史的街並みを活かすという点は共通しているが、どちらかといえば観光の観点からの発想となっているようである。緑地の保全・創造では民主党(の2009年版)と社民党では多少踏み込んだ意見が示されている。「農地」についても、都市内の農地を活かすという点で各党とも共通している。
このようにみれば、法制度の改正・制定をどこまで打ち出すかという点で各党の違いはみられるが、基本的な方向はほぼ共通しているといえる。「地方分権」のもとで「地域単位」での行政・住民・NPO等の取り組みを中心に位置づけ、「エコ」で「コンパクト」かつ活気のあるまちをつくるために、必要に応じて特区などの特別な支援策を行う、ということであろう。となれば、都市計画・都市政策は、選挙における争点・論点とはあまりなりえないと考えられよう。
ここまで各党の違いがみえにくいのはなぜだろうか。都市政策のあり方はもう議論されつくされていて方向性が固まりつつある、と見ることも出来ようが、各党が独自の都市像や政策を十分に検討していないのではないか、とも思えてくる。
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