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Jul 06, 2010

都市計画の観点から2010マニフェストを読む:比較考察編

 これまでみてきた各党のマニフェストの内容を比較考察してみたい。考察で扱うのは、住宅政策と同様に、都市計画に関して一定の記述がみられた、民主党自民党公明党共産党社民党の5党とする。なお、前述の通り民主党のマニフェストには記載は少ないのだが、与党の政策を扱わないわけにもいかないので、昨年のマニフェスト及び「政策集INDEX2009」の内容が現在も生きているものとみなして、考察を行う(2009年の記述部分は薄いグレーとしている)。
 これら以外の党では、都市計画の記述は非常に少ないのが実情である。住宅政策と同様に、党の規模が小さいと、ここまで手が回らないということなのかもしれない。その中でも、新党改革の「超高層縦型都市」というビジョンは、その内容の妥当性はともかくとして、注目に値するといえよう。

 さて、住宅政策の場合とは異なり、各党の都市計画・都市政策に関する基本的なスタンスを示したような部分はみあたらないので、個々のテーマ毎に各党の主張をまとめてみる。

項目 民主党 自民党 公明党 共産党 社民党
法制度 法体系を抜本見直し、都市計画法を全ての地域を対象とする「まちづくり法」に再編 (記載なし) (記載なし) 住民主体の計画づくりや許認可制度を軸にした「都市計画法」の改正や「建築基本法」の制定 建築主・所有者の財産権と周辺の環境権との調整の原則を示す「建築基本法」の制定
都市構造 (記載なし) コンパクトで人や環境に優しいまちづくりを推進 コンパクトシティを推進、歩いて暮らせる生活圏の形成 (記載なし) (記載なし)
都市再生・開発 必要な政策を複合的・集中的に実施する総合特区を展開し、地域を再生 サステナブル都市、国際コンテンツ拠点等を可能とするため、「グローバルトップ特別区」を創設 優良な民間都市開発を支援、民間資金やノウハウを活用し都市再生関連施策を推進 (記載なし) 公共投資や社会資本投資で得られる開発利益を自治体に還元する制度を創設
商業振興 複合建築物の建設などにより「商住一体のまちづくり」を推進 空き店舗の有効利用やアーケード・駐車場・駐輪場の整備等、商店街再生の取組へのソフト・ハード両面での支援 中心市街地活性化法等を抜本的に見直し、ソフト・ハード両面にわたる商店街への総合的な支援の拡充 「大店・まちづくりアセスメント」を義務づけ、「まちづくり3法」の抜本改正 (記載なし)
まちづくり 情報公開と市民参加を徹底した地域主権型のまちづくりのシステムを、都市計画法や建築基準法を抜本改正することで構築 (記載なし) (記載なし) 都市再開発や土地区画整理事業などまちづくりへの住民参加をすすめ、「住民が主人公」のまちづくりを支援 地域の合意を重要視して街づくりを進めようとする自治体や市民の努力を重視
コミュニティ 地域住民同士が互助互恵の精神で行う奉仕活動を促進 地域に根ざした活動を行う団体を支援する「コミュニティ活動基本法」を制定、「地域社会を維持する事業」に取り組む地域マネジメント法人の育成を推進 商店街を地域コミュニティーの顔として住民が憩える場所に再生、社会的課題をボランティアではなくビジネスで解決する活動(社会的企業)を推進 (記載なし) 郵便局ネットワークを地域コミュニティの再生のための生活拠点として活用、地域通貨・福祉事業とワーカーズコレクティブ・コミュニティビジネス等の自主的努力をバックアップ
景観・緑地 まちづくりと一体の多様な観光資源を活かした魅力ある観光地づくり、屋上緑化と美しい都市景観をつくる「都市緑化法(仮称)」の検討 無電柱化の集中実施や景観に配慮したまちづくりなどによる魅力有る観光地の整備 市街地幹線道路、歴史的町並保全地区、観光地などの無電柱化事業 鞆の浦の貴重な景観を維持するため、無謀な計画を中止 「歴史的環境」 (すぐれた「町並み」や「景観」など)を守り再生、虫喰い状態の土地を積極的に買い上げて緑の空間を確保
農地 一筆毎に規制する方式からゾーニング規制(地域別規制)の方式を基本とする制度に転換、農業的土地利用と非農業的土地利用とを一体化した「都市・農村地域土地利用計画制度」を創設 都市農業の継続と農地保全が図られるよう、今後の都市計画制度見直しの中で法律、税制などの整備と振興施策を充実 都市農業が持続可能なものとなるよう都市農業振興法の制定を検討、市民農園・農業体験農園の整備を推進 都市内の農業と農地の存続を否定する現行の都市計画制度を見直し、農業を都市づくりの大事な柱に位置づけ 都市農業の保全・振興

 「法制度」に関しては、言及している3党とも改正や新規の制定を位置づけている。2009年の民主党の「まちづくり法への再編」がより具体的であるが、地方分権・住民主体の時代を踏まえた変更が必要という点では一致しているといえよう。
 「都市構造」に関してはコンパクトシティという考え方は共通、「都市再生」も特区による地域の創意工夫の推進という点は同じようである。「商業振興」では商店街の再生に主眼が置かれ、いずれも様々な施策によって空き店舗の活用などを進めようとする発想である。その中で公明党と共産党はまちづくり3法の抜本改正という制度的な対応も位置づけている。
 地域単位の「まちづくり」については、地方分権で基礎自治体に権限を委譲するとともに、住民の主体性を重視する考え方が明確になっている。合わせて「コミュニティ」施策でも、地域単位の独自の社会的活動やコミュニティビジネスを支援するというスタンスがみられる。
 「景観・緑地」に関しては、歴史的街並みを活かすという点は共通しているが、どちらかといえば観光の観点からの発想となっているようである。緑地の保全・創造では民主党(の2009年版)と社民党では多少踏み込んだ意見が示されている。「農地」についても、都市内の農地を活かすという点で各党とも共通している。

 このようにみれば、法制度の改正・制定をどこまで打ち出すかという点で各党の違いはみられるが、基本的な方向はほぼ共通しているといえる。「地方分権」のもとで「地域単位」での行政・住民・NPO等の取り組みを中心に位置づけ、「エコ」で「コンパクト」かつ活気のあるまちをつくるために、必要に応じて特区などの特別な支援策を行う、ということであろう。となれば、都市計画・都市政策は、選挙における争点・論点とはあまりなりえないと考えられよう。
 ここまで各党の違いがみえにくいのはなぜだろうか。都市政策のあり方はもう議論されつくされていて方向性が固まりつつある、と見ることも出来ようが、各党が独自の都市像や政策を十分に検討していないのではないか、とも思えてくる。

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Jul 02, 2010

住宅政策の観点から2010マニフェストを読む:比較考察編

 これまでみてきた各党のマニフェストの内容を比較考察してみたい。考察で扱うのは、住宅政策に関して一定の記述がみられた、民主党自民党公明党共産党社民党の5党とする。なお、前述の通り民主党のマニフェストには記載は少ないのだが、与党の政策を扱わないわけにもいかないので、昨年のマニフェスト及び「政策集INDEX2009」の内容が現在も生きているものとみなして、考察を行う(2009年の記述部分は薄いグレーとしている)。
 これら以外の党では、住宅政策の記述は非常に少なくなっており、党の規模が小さいと、住宅政策の部分にまで手が回らないということなのかもしれない。となれば、住宅政策は残念ながら“二の次”という位置づけであるともみることが出来よう。

 さて、まずは各党の基本的な方針についてみていく。マニフェストに書かれた事項のうち、各党の基本的なスタンスを示しているとみられる部分を整理すれば、おそらく以下のようになると思われる。

民主党持ち家取得への偏重を是正し、ライフスタイル・ライフステージに合った住宅政策へ転換(2009年版より)
自民党住宅を資産として残せる社会を実現、ライフステージの各段階や多様な働き方・暮らし方に応じたゆとりある住環境を獲得
公明党セーフティネット住宅を100万戸供給
共産党市場任せでなく国・自治体が積極的に介入するなど、住宅政策を転換し、国民の居住の権利を明確にし、その保障を基本とする。
社民党社会保障としての住宅政策、国民の「住む権利」を保障します。

 民主党と自民党は、持ち家=資産としての住宅の捉え方が異なるが、多様な暮らし方に合った住まいの提供という点は共通している。この2党では、住宅セーフティネットは多様な住まいのうちの一部あるいは多様な住まいを支えるものと位置づけられているようである。一方、全体として福祉を重視している公明党は、住宅セーフティネットを全面に打ち出している形である。共産党・社民党も同様にセーフティネットを考えているが、「権利」を保障するためとしているところは、公明党とは異なる。公明党の場合には権利という概念はマニフェスト中ではみられず、現実に生じている課題への対処という側面が強いのではないだろうか。

 続いては注目すべき個別のテーマ毎にみていきたい。まずは、上記でも出てきた「住宅セーフティネット」関連について、各党で書かれている内容は以下のようになっている。

項目 民主党 自民党 公明党 共産党 社民党
公的住宅 セーフティネットとしての活用 (記載なし) 空き家リフォームによる整備 、ストック更新とバリアフリー化 、家賃減額措置等の拡充、定期借家制度の適切な導入 新規建設や借り上げ等での大幅増、入居基準等の変更を元に戻す、UR住宅の民営化阻止 戸数を増やす、家賃見直し、入居資格緩和、UR住宅の民営化阻止
民間住宅 (記載なし) (記載なし) (記載なし) 家賃補助、初期費用貸付、公的な居住保証制度 家賃補助、入居差別の禁止
高齢者 (記載なし) 施設の整備 ケア付き住宅の拡充、住み替え支援事業、施設の大幅増 ケア付住宅の整備、公的住宅での家賃減免、民間賃貸での家賃補助、施設の整備 施設の整備
障害者 (記載なし) グループホーム(GH)居住者への助成 住宅確保の支援、GH等の整備、GH居住者への住宅手当 住まい確保の推進、GH等の選択肢整備 (記載なし)
子育て世帯 (記載なし) (記載なし) (記載なし) 公的住宅整備、家賃補助 (記載なし)
失業者等 支援を強化、公的住宅等の確保 (記載なし) 再就職支援付住宅手当 住宅手当、公的住宅の活用、家賃補助、貧困ビジネス規制 生活保護から住宅扶助を分離、総合窓口設置、ゼロゼロ物件の規制、公的住宅の活用

 各党の考え方の違いがはっきりとみてとれる。前述の通り、セーフティネットを重視する公明党・共産党・社民党と、あまり重視していないようにみえる民主党・自民党との違いは大きい。重視する3党の間では、国・自治体による直接的な建設や家賃補助を打ち出す共産党・社民党と、整備を進めるとしているが直接建設よりは民間の活用という側面がみられる公明党、に違いがみられる。さらに言えば、社民党よりも共産党の方が、直接的な建設・補助をより明確に位置づけているようである。

 セーフティネットではない、「一般の住宅」に対する政策をみると、各党で書かれている内容は以下のようになっている。

項目 民主党 自民党 公明党 共産党 社民党
新築住宅 長期優良住宅の普及、エコ住宅の普及、木造の長寿命住宅を推進 長期優良住宅の供給、断熱住宅の推進、省エネ化を加速、2世帯・3世帯住宅の推進 長期優良住宅の普及、保険制度の創設、省エネ化推進のための補助・税制・融資 (記載なし) (記載なし)
中古住宅 バリアフリー・耐震補強・省エネ改修を支援 耐震・省エネ・バリアフリー改修の推進、住み替え・中古流通の市場環境整備 建替え・リフォームで耐震化、バリアフリー・省エネ改修の推進、中古住宅市場の流通促進 耐震・バリアフリー化リフォームの支援 住み替えが柔軟に行える仕組み
民間賃貸住宅 家賃補助や所得控除等の支援、定期借家制度の推進、市場の活性化 賃貸住宅の供給推進 良質な賃貸住宅の供給、紛争の防止 定期借家制度に反対、入居差別をなくす、家賃補助 入居差別をなくす、家賃補助の導入
マンション (記載なし) (記載なし) 適切な管理と再生を促進 耐震・バリアフリー化・省エネ化の支援、管理組合への支援、消費者保護、マンション管理士活用、再生を支援する法整備 (記載なし)
金融・税制等 ノンリコース型ローンの普及、リバースモーゲージの推進、両手取引の禁止 (記載なし) 住宅金融支援機構ローンの拡充、債務返済条件の緩和、ノンリコースローンの仕組み構築 家賃に関する税控除 (記載なし)

 新築住宅への政策を位置づける民主党・自民党・公明党と、位置づけのない共産党・社民党が対照的である。前述の通り、政府による公的住宅を重視する場合には、民間による新築住宅には関心がないといえるかもしれない。中古住宅ストックの重視・活用という部分は、改修を進める、住み替えや流通を促す点で、各党ともおおよそ共通しているようである。民間賃貸住宅についても、供給の推進は共通しているようだが、定期借家と家賃補助の扱いが大きく異なる。マンションや金融・税制等では、他の項目では考え方が異なる政党が、共通して関心をもつ内容が見られるのが興味深い。

 以上のように見ると、住宅政策に関して争点になりそうなのは、「住宅セーフティネットの重視度」「新築住宅への支援のあり方」「民間住宅の活用方策」といったあたりになるのだろうか。

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