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Mar 21, 2011

被災地域外の仮住まいで入居後の支援を実施する方法

 先に、あんしん賃貸支援事業の枠組を使って、被災者の仮住まいへの入居を支援することが出来るのではないか、とのアイデアを書いた(「あんしん賃貸支援事業の枠組の被災者支援への活用案」)。ここでは、被災地において個々の被災者の相談に乗り、今後の生活再建の流れを考えた上で、それに合わせた仮住まいの形を提案する…という(仮住まいへの)「入居前支援」が重要だと考えていて、そのために被災地の自治体をベースにして居住支援協議会を立ち上げて居住支援団体の活動を行うことを検討したのだが、甚大な被害を受けて緊急段階の対応に追われている被災自治体では、現時点でこのような取り組みを始めるのはやはり難しいのかもしれない。
 となれば、入居前支援は無理だとしても、「入居後支援」は行えればと思う。被災後の不安定な状況で慣れない地域に来た被災者に対しては、仮住まいへの移転後もある程度の生活面での支援が必要と思われるからである。しかし、このような域外に置ける入居後の支援活動を位置づける制度はないと思われ(詳細は未確認)、また仮住まいの提供に要する費用は災害救助法の弾力的運用で国負担になるとしても、これらの生活支援までも対象になるのかは定かではない。

 と考えると、先に示した「あんしん賃貸支援事業」のスキームを被災者を受け入れる地域において活用し、居住支援協議会が行う活動の一環として「民間賃貸住宅及び公営住宅に移転してきた被災者の入居後支援を行う」というのを位置づけて、支援団体による仮住まいへの移転後支援を行うアイデアもあるような気がする。
 つまり、既に居住支援協議会が既にある地域では、来年度の活動に移転してきた被災者の入居後支援を位置づけて、既存の支援団体あるいは新規の支援団体と協力して、移転後の支援体制を構築する形が考えられる。現時点で居住支援協議会がない地域では、被災者支援を目的にして新たに協議会を立ち上げて、関係機関との間の調整を行い、かつ支援団体を募集して支援活動を行う、みたいな形が考えられるのではないかと。そしてこれらの被災者支援に要する費用は、(来年度から開始される予定の)居住支援協議会活動支援事業で国が助成を行うという考えである。
 こういう形をとれば、被災者の生活を支えたいと考える民間ボランティア団体・NPOも制度的な位置づけが得られるし、活動に要する費用に関しても(どの程度かは分からないが)公的な負担が可能になるのではないか。
 そして、このような入居後の支援を行うことで、「被災地域外への仮住まい移転に関する(一抹の)不安」で書いた内容の一部も、ある程度解消できるのではないかと考えられる。

 「被災者」は住宅セーフティネット法における「住宅確保要配慮者」に位置づけられているから、住宅確保要配慮者を対象として行われる居住支援協議会の活動の中に、被災者を位置づけることは仕組み的には問題ないと思われる。若干問題になるとすれば、当該地域外から来た住宅確保要配慮者を対象にする点だが、平時の支援においても県外から来る人の対応も行っているのであるから、このあたりは問題はないのではないか。

 なお、今年度のあんしん賃貸支援事業の提案募集では、上記のような「居住支援協議会が行う民間賃貸住宅等への入居の円滑化に係る活動の支援に関する事業」の他に、「既存賃貸住宅活用に係る地域ネットワークの形成・活用促進事業」、つまり「既存賃貸住宅を借り上げることによる公営住宅の供給」を検討することも位置づけられているから、それこそ民間賃貸住宅借り上げによる一時避難住宅・仮設住宅の供給も、この枠内で検討できるのではないか。

 さらにいえば、居住支援協議会の活動目的は、民間賃貸住宅への入居支援にとどまるものではなく、公的賃貸住宅ストックの活用に関することも含まれるから(実際、神奈川県の居住支援協議会では、この両者を柱として位置づけている)、公的住宅における被災者の受け入れの話も、この協議会をベースにして検討できるのではないか。そうすれば、被災者の仮住まいにおいて、公的住宅と民間賃貸住宅とでどのような役割分担をするのか、両者をあわせた形でどのような受け入れ及び入居後の生活支援の体制が構築できるのか、というようなことも議論が出来るだろう。
 例えば、罹災証明があり制度的に問題ない人は公的住宅で、罹災証明がない人は民間が提供するボランティア的な住宅で受け入れるとか(福井県ではそのような形を考えている様子)、入居が中長期に渡る見込みの人は一時避難からそのまま仮設住宅扱いにするなど柔軟な対応が(相対的に)しやすい公的住宅で受け入れ、比較的短期で現地に戻れそうな人は民間賃貸住宅で受け入れるなどの、適切な対応がとりやすくなるのではないか。

 被害が非常に大きい分、被災地の避難所から動けない人も多く、仮住まいへの移動はまだ実際にはそれほど多くはないのだろう。しかし、いずれ移動が増えてきた時のことを考えて、例えば上記のような形で受け入れ体制を考えておくことも必要かもしれない。
 そして、このような体制が確立出来たところから先に/を中心にして、仮住まいへの受け入れは進めるべきではないかとも思う。被災者であっても自分で判断して動き自力で状況に適応出来る人もいるが、多くの場合には様々な困難を抱えて不安な立場にいるわけであるから、住まいというハードさえ提供すればよいわけではなく、その後の生活を支えるソフトも必要なわけで、両者の提供が可能な都道府県を軸にした域外受け入れの仕組みを整えた方がよいと考える。

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Mar 20, 2011

被災地域外への仮住まい移転に関する(一抹の)不安

 今回の地震の被害が広域かつ甚大であるのを受けて、被災者を域外の住宅で一時的に受け入れようとする動きが広がっている。公的住宅の空き家に受け入れるというこれまでも行われてきた方法のほか、民間ベースでも、例えば「仮り住まいの輪」などのような形で、善意の大家と被災者をマッチングする動きがみられる。
 こうした動き自体は必要だし、基本的には被災者のためにもなるとは思うが、このような「仮住まい」への避難・移転が個別の動きとしてどんどん進められると、被災者の生活再建に必ずしも寄与しない部分もあるのではないか、及び受け入れる側も後で大変な思いをするのではないか、という気もする。以下、気になることを箇条書きで挙げてみる。


  • 仮住まいへの移転という行為が、災害救助法に基づく公的な再建支援制度と整合するか。個人単位で行き先を探して移動してしまった際に、その後の復興関係の支援制度が適用されないとか情報が流れないとかはないか。一度仮住まいしたが地元に戻りたい時に仮設住宅に入居できない、仮設住宅相当とみなされ応急修理制度の対象外になるなどの問題はないか。
  • 移転先の居住環境に順応できるか。最近の公営住宅ではいわゆる残余化(単身高齢化、低所得化)も進んでいるので、被災者と他の入居者との間にギャップがあると、生活環境として問題ある場合も。団地のコミュニティ=自治会がしっかりした所では管理は良いが、適切な管理も出来ず関係が悪いところもあると聞く。
  • また、東北から他の地域(例えば関西)に移ってくると、生活の環境や文化はかなり違うわけで、そこをどうフォローするのかも課題ではないか。適切なフォローがないままに世帯が孤立してしまうと、大きな問題ともなりかねない。
  • 住宅の質の問題はどうか。空き室がある住宅は相対的に人気がないわけで、質や交通の便が悪い可能性も高い。たとえ一時的とはいえ、そのような住宅に住むのは被災者にとってどうなのか。特に民間賃貸住宅の場合、政策的判断とかではなく、借り手がいないから空いているわけで、そうして貸せる物件の質は結構低いことも危惧される。
  • 入居する期間の問題。公的住宅では入居期間3カ月~1年程度で、これは避難所の代替の意味だろうが、その後どうなるのか。被災地の仮設住宅に戻ることは可能なのか。また民間賃貸の場合はどの程度をイメージするか。善意でタダで貸せるのは、非常に短期間に限られるのでは。当初の予定期間を過ぎた場合、延長にも対応するのか。公的住宅ならある程度対応可能だが、民間賃貸ではどうか。
  • 善意とか無料での提供というのは理想的なのだが、そうであるからこそ、両者の間の関係が崩れた時に生じる問題は大きいのではないか。善意の気持ちは一歩間違えば大きな敵意に変わりかねない。そういう不安定な状況に被災した方々を置けるか。
  • 物件の選定の問題。親族・知人が現地にいるならともかく、こんなふうに戸数と連絡先だけが並んでも選びにくいのではないか。どういう住宅の間取り・広さなのか、周辺環境はどうなのか、入居後にどんな生活支援が得られるのかも含めた情報提供が必要では(注:兵庫県では団地名と戸別の間取り・面積等まで公開、広島県は生活支援実施の内容も記載)。
  • 申込の手続の問題。現状では既に個別の先着順申込を受け付けている様子。となると、域外避難が必ずしも必要ない人の申込で良い条件の住宅が埋まっていき、本当に必要な人に渡らなくなる危険性も。ネット等を使えない高齢者には仮住まい情報はなかなか届かないだろうし、大被害地域の被災者は避難所の暮らしで精一杯で、仮住まい情報も不十分で検討も出来ていないのではないか。そんな人にこそ長期間いられる良い住まいが必要だが。
  • 同じ問題で、個別に住戸への割り当てをしてしまうと、地域毎・避難所毎にまとまって移転をしようとした時に、一定地域(あるいは特定自治体)内にまとまった数の住宅が確保できなくなるのではないか(実際、同じ団地内で確保できるのはせいぜい一桁戸単位の模様)。

 いずれも一研究者の思いつきのレベルであり、実際に生じている状況に基づいた考察ではないが、こういう問題・課題が起きることは十分に想定されるのではないか。
 そういう意味では、域外への避難・疎開を過度に推奨・促進するようなムードはつくらないようにした上で、域外の仮住まいに移る方が望ましい地域(避難所)・被災者とそうでない地域・被災者との整理や、どういう状況の人はどんなチャンネルを使ってどういう住まいに移るのがよいのかという役割分担などを検討して、ある程度冷静かつ計画的に避難・疎開を進める/勧めることが必要ではないかと思う。

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Mar 16, 2011

あんしん賃貸支援事業の枠組の被災者支援への活用案

(今回の震災に関して、個人的に考えたアイデアです)

 3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の被害は甚大で広範囲に渡っており、現時点で避難者は約34万人と膨大な数です。被害を考えれば停電・断水等が終わっても自宅に戻れる人の数は少ないとみられ、1~3ヶ月後の応急段階においては、避難者の仮住まいをどう確保するかが大きな課題になると思われます。
 仮住まいに関しては、従来の震災では仮設住宅の建設が中心でしたが、被害が甚大であること、また津波を受けた沿岸部では建設用地の確保も難しいと思われることからすれば、公営住宅・UR賃貸住宅の空室や民間賃貸住宅の積極的活用も含めた仮住まいの確保が必要とみられます。実際そのような動きも始まっており、国土交通省の災害情報によれば、全国で公営住宅約11800戸、UR賃貸住宅約1000戸が提供可能な空き室として把握されており、(社)全国賃貸住宅経営協会等からも住宅支援の申し出が行われています。

 そのような際に、あんしん賃貸支援事業のフレームが活用しうるのではないかと考えます。
 あんしん賃貸支援事業とは、高齢者・障害者・外国人・子育て世帯等の住宅確保要配慮者、並びに賃貸人の双方の不安を解消するため、入居後の見守り等と入居時の物件探し等のサポートを総合的に行う仕組みを構築し、円滑な入居と安定した賃貸借を支援するものです(詳細はこのページを)。
 以下の図に示すような枠組で、物件の情報提供及び斡旋・仲介はあんしん賃貸協力店が行い、物件見学への同行や契約手続の立合い・説明補助等の入居時の支援はあんしん賃貸支援団体と協力店が連携して実施し、定期的な安否確認や相談対応、緊急時の対応などの入居後の生活支援をあんしん賃貸支援団体が行います。

Anshin_3


 あんしん賃貸支援事業が基づいている、いわゆる住宅セーフティネット法では、住宅確保要配慮者として「被災者」も位置づけられておりますので、あんしん賃貸支援事業のフレームをこのような形で用いることは、法の趣旨にも沿っているものであり、積極的な活用が望ましいのではないかと考えます。
 そして、以下の2点において、あんしん賃貸支援事業のフレームが活用しうるのではないかと考えます。

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(1)仮住まいの確保に際して、居住支援協議会に基づく支援団体等を活用する

 公営住宅や民間賃貸住宅への転居に際しては、被災地から距離のある地域の、従前住宅とは全く異なる住まいに移る可能性も高いため、個々の被災者の状況に合わせた適切な住宅探しと入居を支援するとともに、住み慣れない地域での不安な暮らしを少しでも支えるべく、状況に応じて入居後の支援も行う必要があると思われます。被災者が高齢者や障害者、外国人の場合にはなおさらです。

 このように考えますと、あんしん賃貸支援事業のような居住支援を、被災者の仮住まい探しにも適用することが考えられるのではないかと考えます。
 具体的には、状況を判断した上で必要であれば被災地の県(もしくは市)単位で居住支援協議会を立ち上げて、生活相談及び不動産紹介を行う人員を確保して支援団体を構成し、生活再建全体の相談に対応する中で適切な仮住まいを提案し入居を支援するようなイメージです。あわせて必要に応じて、移転後の生活を見守る支援団体を位置づけることも考えられます。
 この協議会の立ち上げ及び運営に要する費用、並びに対応する団体の経費や人員の人件費等を、あんしん賃貸支援事業の後継的事業として位置づけられる、居住支援協議会活動支援事業によって国が助成する形がとれれば、地域毎の居住支援が可能になるのではないかと考えます。

 具体的なイメージとしては、以下のような形が考えられるでしょうか。
1)居住支援協議会の立ち上げ
 通常の協議会の立ち上げと同様に、都道府県・市町村の関連部署(住宅系・福祉系)、不動産系業界団体、社会福祉協議会・NPO等などによって構成することになりますが、手間を考えれば手続は簡素化する必要があると思われます。
2)入居前支援体制の構築
 入居前支援としては、物件情報の提供、選定の助言、契約手続の支援などがありますが、その人の生活全体の状況や問題を踏まえた上で望ましい住まいの形を見いだすことが重要です。ですので、支援の体制においては、物件関係を扱う担当者と、生活全般を考える相談員の役割の両方が必要になり、例えば前者は不動産系団体への委託、後者は相談の専門家や社協・NPOへの委託になるでしょうか(もちろん両方を担える人材が望ましいですが)。現地では人員が確保できない場合には、外部からの応援(被災地以外の支援団体への委託・連携)も考えられます。
3)入居後支援体制の構築
 入居後支援としては、見守りや相談対応、被災者に対する情報提供などが考えられます。移転先が同一地域内であれば、入居前支援を行う団体がそのまま対応する形もありえますが、地域外となるとその地域の団体と協力して行う体制が必要になります(このような対応を円滑に行う意味では、同一地域の被災者は近接した地域に移ることが望ましいかもしれません)。

 このような形を可能にするには、現行の事業制度の一部見直しも必要かと思われます。
 また、震災時の一般の相談対応等との整合も問題になるかと思いますが、そのあたりは柔軟に対応して、同一の役割の相談員を本事業と他事業とでうまく按分して扱うなどもあるのかと考えます。

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(2)仮住まいの情報提供に関して、あんしん賃貸ネットのシステムを活用する

 被災後の仮住まいに関しては、全国の公営住宅・UR賃貸住宅での受け入れが検討されており、現在空き室数の確認が行われています。これらの物件の情報を広域に渡る被災地に対してどのような形で提供するかは課題と思われます。
 また、民間賃貸住宅の活用に関しては、新潟県中越地震の際にはこれらを行政が借り上げて最長2年提供する対応がとられました(参考としてこちらの報告書原稿の「借上型仮設住宅」の項を)。この時は不動産業界団体から提供された物件のリストを紙ベースで利用していたと記憶していますが、今回の地震では広い範囲の被災地でより大量で広域に渡る物件の情報を扱う必要があるとみられ、紙ベースの対応では到底追いつかないと思われます。
 さらに、震災後のネット上の動きをみていますと、個別の不動産業者や大家等が協力して被災者に空き室を提供しようとの動きも起きつつあるようで、このような形で出てくる物件の情報を被災地全体で共有し、適切な形で被災者に提供するためには、どこからでも接続可能な物件のデータベースが必要と思われます。

 このようにみると、本年度で終了予定の「あんしん賃貸ネット」のシステムを活用して、被災者向けの仮住まいの情報を提供することは出来ないかと考えます。
 具体的には、被災者を受入可能な公営住宅・UR賃貸住宅の情報や、上述のような不動産業界・不動産業者・大家から提供される民間賃貸住宅の情報を、本目的にあわせて一定程度改良した上記システムに統合的に登録して、被災地各地から物件情報を検索するようなイメージです。
 これらの被災者向け物件の情報は、通常の公営住宅・UR賃貸住宅及び民間賃貸住宅の物件情報システムとは別に動かした方がよいと思われますので、本年度で終了するあんしん賃貸ネットのシステムを転用する意義はあると思われます。
 あわせて、物件の入居申込の手続についても、被災地以外の後方地域に窓口を設置して、一元化して行うことが望ましいと考えます。

 実際のところは、入居が決まった物件の情報をどう扱うかなどの問題があるかと思いますが、非常時とはいえそれぞれの方にニーズに合った住宅を提供して安心して住んでいただくようにするには、物件全体の情報を見通せるようにして、ある程度の比較選択を可能にすることは重要だと考えます。

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