空き家賃貸住宅の被災者仮住まいへの活用を考える(2)
…(1)より続く
続いて、仮住まいに移るにあたって最も重要と思われる、「1.住宅の立地」に関して考える。ここでは、被災地(県)からの距離を考えて、仮に次の5つのエリアに分けて捉えてみることにする。
(A)被災県:岩手・宮城・福島
…茨城・千葉も被災地だが被害程度を考えて仮に外す
(B)被災地隣接県:青森・秋田・山形・新潟・群馬・栃木・茨城
…被災県に接する県
(C)被災地近隣県:北海道、富山・長野・埼玉・東京・千葉・神奈川・山梨・静岡
…隣接県に接する県、及びそれらと被災県から同程度の距離の県
(D)その他東日本:石川、福井、岐阜、愛知
…関西よりも東を仮に位置づける
(E)その他全国:上記以外の県
これらの5エリアの都道府県について、空き家・賃貸用の住宅の状況を集計したのが[表3]である。先に全国について述べた通り「腐朽・破損あり」は不適切と考え、また(A)被災県については地震による建物被害や地域の被害も想定されるため半数程度しか使えないと仮定すれば、それぞれのエリアで仮住まいとして活用可能と考えられる空き家賃貸住宅の戸数は、以下のようになろう。
(A)被災県:7.3万戸
(B)隣接県:31.0万戸
(C)近接県:131.8万戸
(D)東日本:25.5万戸
(E)その他全国:123.9万戸

このような仮住まいの住宅供給に対して、需要側はどのような状況だろうか。そして需要に対して供給はどの程度満たされるのだろうか。住宅の被害戸数の全体像はまだ明確にはなっていないが、「建築物被害状況」や「避難者数」をベースに考えれば、[表4]のような形となろう。
警察庁の4/13時点の情報によれば、建築物被害は全域で全壊59972戸、半壊13149戸となっている(発表された合計値と若干異なるのだが)。原発問題のある福島県では確認が進んでいないようだが、とりあえずこの値を用いて「全壊戸数と半壊戸数の半分」が仮住まいを必要とすると仮定すれば、必要戸数は「66547戸」となる。
一方、警察庁の同じ情報によれば、避難者の人数は全域で138286人となっている。この数は他県からの避難も含むため、仮住まいの段階でも当該県にいるとは限らないが、とりあえず避難先の県内で仮住まいも探すと仮定して、国勢調査に基づく全国の平均世帯人数2.55人を用いれば、必要世帯数は「54518世帯」となる。
住宅の戸数と世帯数は必ずしも対応しているわけではないのだが、ここはおおよそ同じと扱うとして、前記の必要戸数と必要世帯数のより大きな方が、必要となる仮住まいの数だと想定すると(つまり多めにとるということ)、想定必要戸数は「80378戸」となる。この場合に、「避難者人数」の必要世帯数の方が「建築物被害」の必要戸数より大きい場合(表中の黄色の県)には、建物被害は相対的に少ないのに避難者が多いわけだから、(A)被災県からの広域避難者が中心とみてよいだろう。

この需要に対して、空き家賃貸住宅が足りているのかどうかを考えてみる。充足状況について推定してみたのが[表5]である。
前出の「活用可能想定戸数」の全てが被災者の受け入れに使われる、つまり大家が被災者への貸し出し(あるいは行政による仮設住宅としての借り上げ)に応じるとは考えられないから、一定割合の物件のみが受け入れに使われると想定するのが妥当であろう。
国交省・住宅局の対応状況の資料によれば、福島県について「応急仮設住宅として借り上げる際の条件を提示して確保した5千戸の借上対象」とあるので、福島県の活用可能想定戸数22900戸の「20%」程度で受け入れが出来る(借り上げが出来る)と考えることができよう。この割合は他の(A)被災県でも同様と考えてもよさそうだが、必ずしも被災地ではない(B)隣接県では事情は異なり、これだけの割合で受け入れられるとは考えられないので、仮にその半分の「10%」が受け入れに応じると想定する。(C)近隣県以遠では、さらに受け入れ割合は下がると思われるから、「5%」の受け入れと仮に考えてみる。
このように仮説的に考えてみると、空き家民間住宅で想定される受入戸数は、次のように推定することができるだろう。
(A)被災県:1.4万戸
(B)隣接県:3.1万戸
(C)近接県:6.5万戸
(D)東日本:1.2万戸
(E)その他全国:6.2万戸
先に出した需要側の「想定必要戸数」と、この供給側の「受入想定戸数」とを比較するわけだが、まずは「全て空き家賃貸住宅で受け入れる」場合を考えてみる。その際の受け入れに関しては、まずは当該都道府県内の被災者を第一に受け入れる、と考えるのが妥当だろう。こう考えた場合の各都道府県での充足状況は「当該県内受入」の項の通りであり、(A)被災県では5.3万戸が足りない計算となる。この不足分について、被災県からの距離が近く2.3万戸の余裕がある(B)隣接県で受け入れるとすれば、それでも足りない分は2.9万戸となる。この分に関しては、(C)近接県のうち被災県からの交通の便が比較的よいと考えられる関東の4県で十分受け入れが可能であり、それでも1.3万戸の余裕がある計算になる。
つまり、全ての被災者を空き家賃貸住宅で受け入れるとした場合でも、(A)被災県、(B)隣接県、及び(C)近隣県のうち関東だけで十分まかなえるのであり、それ以遠の県の空き家を使う必要はないと考えられるのである。
続いて、建設される仮設住宅で優先して被災者の受け入れを行った上で、足りない分を空き家賃貸住宅で受け入れる場合を考えてみる。前述の国交省の資料によれば、(A)被災県で計62000戸、その他もあわせて全域で62290戸が、仮設住宅の建設が必要な戸数として示されている。
これらの建設予定の仮設住宅で、想定必要戸数を受け入れるわけだが、広域避難した被災者も元の県の仮設住宅に戻ってくるのを第一に希望していると考えれば、前述のように広域避難被災者が多いとみられる県(表中の黄色の部分)については、ここの想定必要戸数は(A)被災県で受け入れることを考えなければならない。そこで広域避難被災者の需要戸数(表中の黄色)を、被災3県に等分に割り振るとして、充足状況を計算したのが表の「仮設住宅受入」の数値である。
これより、(A)被災県の岩手で3.6千戸、宮城で10.9千戸が足りない計算となる。福島の場合は1.9千戸余る計算となるが、これは被害状況が確認されていない原発周辺地域も含めて仮設住宅の必要戸数を考えているためであろう。全域でみれば、仮設住宅で足りないとみられる戸数は1.8万戸と想定される。
この分を各県内の空き家賃貸住宅で受け入れるとすれば、(A)被災県の岩手で0.6千戸、宮城で3.9千戸が足りないことになるが、この程度の住戸数であれば(B)隣接県において十分受け入れられる数である。実際には、建設仮設住宅・空き家賃貸住宅の他に、公営住宅等も活用されるのであるから、(A)被災県内でほぼ対応しうるとも考えられるだろう。
よって、仮設住宅への入居を第一に考え、足りない分を空き家賃貸住宅で受け入れる場合には、(A)被災県でほぼまかなうことができ、不足分も一部の(B)隣接県で対応できると考えられる。

あくまでも現状で手に入るデータを元にした非常に粗い推計ではあるが、空き家賃貸住宅の仮住まいとしての活用は、(A)被災県と(B)隣接県を中心に実施すればよく、それでも不足する事態が生じても(C)近隣県の関東地方だけでまかなえるものと推測される。
よって、全国を対象として広く空き家賃貸住宅の活用を促す必要はそれほどないのであり、被災者が元々住んでいた地域での生活・住宅再建を望むのであれば、(A)被災県及び(B)隣接県において空き家賃貸住宅の掘り起こしを行えば、十分に対応しうるものと考えられる。
なお、遠隔地の空き家賃貸住宅については、一定地域にまとまった戸数が確保出来て従前のコミュニティ単位で移住出来るところがある、従前と同様の仕事が実施出来る環境がある、あるいは社会的弱者が必要とする適切なケアが受けられるような場合で、被災県・隣接県及び近隣県でそのような環境が得られないのであれば、活用する意義はあるものと思われる。
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