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Jul 26, 2011

応急的住まいの現状はどうなっているか

 先に書いた「公的賃貸住宅の制度にはどんなものがあるか」では、住宅の復興・再建における活用を念頭に置いて、既存の公的賃貸住宅の仕組みについて整理したわけであるが、住宅の再建を考えるにあたっては、公的賃貸住宅などの住宅の供給側の話だけではなく、そこに住む居住者=被災者という需要側のことも考えなければならない。
 被災者がどのような住宅再建を行うかについては、住宅を再建する前に住んでいる、応急段階における仮の住まい(以降、応急的住まいとする)の状況が大きく影響してくると思われる。そこで、応急的住まいは現状でどのようになっているのかをまとめておきたい。

 国等が公開している資料や新聞記事などを元にして、応急的住まいの種類や数についてまとめてみたのが、以下の図(PDFはこちら)である。ここでは、「被災」の戸数を示した上で、「避難」している人数と「応急的住まい」の戸数・人数について、被災3県内と被災地外(県外)に分けて整理している。

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 内閣府・被災者生活支援チームの「全国の避難者等の数」(7/14)によれば、被災3県内での、避難所や旅館、自宅避難(自宅にいて避難所に通っている人:岩手県分のみ)している「避難者」の合計は約3万6千人おり、被災県外にも避難所・旅館や親戚・知人宅などに約2万3千人がいるという。これらの人々もいずれ応急的住まいに移っていくのであろうが(親戚・知人宅についてはそのまま長期間暮らす可能性はある)、7月中旬時点での応急的住まいの状況としては、被災3県で約6万8千戸の住宅等で被災者が暮らしており、被災県外では住宅等に約3万2千人がいるという。
 その内訳であるが、データの出所が違うためきちんと整合はしていないのだが、被災3県については、建設型仮設住宅(プレハブ仮設)が約4万戸、公営住宅等が約3千戸、民間賃貸借上仮設(いわゆるみなし仮設)が約4万4千戸で、計約8万7千戸となっている。これにこれから完成する予定の建設型仮設住宅の(必要)戸数約1万戸を足せば、合計約9万7千戸の応急的住まいが供給されることになる。
 一方、被災県外のものについては、民間賃貸借上仮設が約3千戸、公営住宅等(期限が半年程度のものもあり、2年近く住める応急的住まいとは限らないが)が約1万7千戸で、計約2万戸の応急的住まいが提供されている。

 ここで注目すべきは、被災県外に約2万戸=被災3県の予定戸数の約2割の応急的住まいが供給されていることと、被災3県内において民間賃貸借上仮設(みなし仮設)が4万戸を超え、現時点で建設型仮設住宅の完成戸数を上回っており、最終的な必要戸数にも迫ろうとする数になっていることだろう。この点が、建設型仮設住宅が応急的住まいの大半を占めていた、過去の災害とは大きく異なる点である。
 なお、河北新報の記事では、宮城県の7/14時点の民間賃貸借上仮設の入居決定戸数は20257件で、うち仙台市7886件・石巻市4600件・気仙沼市1223件・多賀城市1087件・東松島市974件で、残りが4487件となっており、規模の大きな都市が中心であるのが分かる。さらにH20住宅・土地統計調査の空き家の賃貸用住宅の総数と比べてみると、仙台7886/59840、石巻4600/4730、気仙沼1223/1820、多賀城1087/2700、東松島974/770となる(前者が借上仮設/後者が空き家賃貸用住宅戸数)。ちなみに同調査の空き家の賃貸用住宅(腐朽・破損なし)数は、仙台46490・石巻3460・気仙沼1280・多賀城2010・東松島750戸である。入居決定戸数が被災者の従前居住地毎の集計か入居する住宅がある地域毎の集計かは分からないが、仮に後者だとすれば、気仙沼は腐朽等がなくてすぐに使える空家の数とほぼ同数、東松島は空家以上の申請であり、石巻などの数字をみても「腐朽・破損あり」も含めて賃貸空き家をフル活用という感じにみえる。

 ここでは個々の市町ごとの数は分からないが、以前にまとめた「沿岸部市町村の住居の状態」で津波被災市町の公的借家や民営借家が少なかったことを踏まえれば、応急的住まいの「公営住宅等」や「民間賃貸借上仮設」に関しては、(宮城県で言えば)仙台や石巻・気仙沼などの一定規模のある都市部か、内陸部の相対的に被害が少ない地域に多くあるものと想定され、これらに入居している人々はもともと居住していた市町を離れていることが想定されるだろう。そして、この部分(特に民間賃貸借上仮設)の戸数が多いということは、応急的住まいの後の復興住宅の選択においても、大きな影響が及ぼされるものと思われる。

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Jul 16, 2011

公的賃貸住宅の制度にはどんなものがあるか

 東日本大震災による建物被害は、特に甚大な被害を受けた岩手・宮城・福島の3県の合計で、全壊104879戸、半壊95546戸(警察庁:平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の被害状況と警察措置、平成23年7月15日付)とされており、その多くが住宅と考えられることから、住宅の復興が非常に重要な課題となる。震災後の住宅復興の支援策としては、個人の住宅再建に対する経済的支援(融資・補助等)のほか、公的賃貸住宅の直接供給も行われ、被害が甚大な災害の場合には公的な直接供給の持つ役割は大きい。そこで、東日本大震災の復興における活用を想定した上で、公的賃貸住宅の仕組みについて整理をしてみたい。

 現行の制度で位置づけられている主要な公的賃貸住宅の種類について整理してみたのが、以下の表である(PDFはこちら)。公的賃貸住宅に関する制度は近年様々な形で変わっているため、整理に際して、規定が細かく表記できていない部分や正確に記載できていない部分、確認がとれていない部分や理解不足の部分も多い。そのため、本表はあくまでも概要をつかむための参考資料であり、詳細は個別の法律・要綱等を確認いただきたい。

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(1)公営住宅
 公的賃貸住宅として最も主要といえるのが、住宅に困窮する低額所得者に対して地方公共団体が低廉な家賃の賃貸住宅を供給する「公営住宅」である。供給形態としては、地方公共団体による直接建設、民間等が建設した住宅を地方公共団体が購入する「買取方式」、民間等が建設した住宅を棟単位あるいは住戸単位で借り上げる「借上方式」がある。それぞれの方式で、所有関係や建設費等への国の財政支援などは若干異なるが、整備基準や入居者資格に関しては基本的に共通する。
 また、高齢化への対応のため、LSA(生活援助員)による生活支援サービスを公営住宅に付加するものを「シルバーハウジング・プロジェクト」という。この場合は、入居者は高齢者の単身または夫婦世帯等となり、生活支援を行うための高齢者生活相談所やLSAが住宅内に居住する場合の住戸の設置費用が助成される。また、LSAの雇用等にかかる費用は、厚生労働省の地域支援事業の中から助成がなされる。
 震災復興の場合には、「災害公営住宅」として、入居者資格の要件が免除または緩和され、同居親族要件不要=単身でも入居可や、収入要件の緩和または要件不要といった措置がなされる。建設費や家賃への補助についても、通常よりも国の負担割合が増額される(なお、東日本大震災は「激甚災害」に指定されているので、補助率等は高い値が適用される)。
 過去の災害でも多くの災害公営住宅が供給されている。阪神大震災では約4万戸が供給されており、これは「ひょうご住宅復興3カ年計画」での新規建設11万戸の36%を占める。この中には都市基盤整備公団(現都市機構(UR))※の住宅の借り上げのほか、シルバーハウジング・プロジェクトの約4000戸、またシルバーハウジングを活用する形で供給された高齢者向けコレクティブハウジング約260戸も含まれる。なお、新潟県中越地震では、(おそらく)直接建設方式によって計336戸が供給されている。
※なお、都市基盤整備公団や兵庫県住宅供給公社でも、賃貸住宅計約1万戸を供給している。

(2)地域優良賃貸住宅
 従来の特定優良賃貸住宅(特優賃)と高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)とを再編して平成19年に創設された制度である。旧特優賃は「地域優良賃貸住宅(一般型)」、旧高優賃は「地域優良賃貸住宅(高齢者型)」とされる。一般型(旧特優賃)は公営住宅の入居者よりも所得の高い中堅所得者層が対象とされ、高齢者型(旧高優賃)は高齢者のみが対象と位置づけられる。
主として民間によって建設され賃貸される集合住宅を指すが、地方公共団体が自ら建設する場合や、民間や住宅供給公社・都市機構が建設した物件を買い取りまたは借り上げて供給する場合も位置づけられている。また、新築された物件だけでなく、既存の物件を整備基準に合わせて改良したものも制度の対象となる。
 震災復興においては、東日本大震災の後に「災害復興型」が追加されている。阪神大震災の際には「災害復興特定優良賃貸住宅」という形で運用されていたので、おそらく「一般型」をベースにして入居者資格が緩和され、国からの建設費等への補助が拡大されるものと思われる(このあたり詳細は確認出来ていない)。
 阪神大震災では、前記の「災害復興特定優良賃貸住宅」の形で、民間が建設する賃貸住宅を借り上げる等して、約12000戸が供給されている。高齢者向け優良賃貸住宅については、震災の時点ではまだ創設されていなかったため、用いられていないと思われる。なお、新潟県中越地震において特優賃・高優賃が供給された例も確認されていない。

(3)改良住宅
 住宅地区改良事業において、従前居住者に向けて供給される住宅である。事業は不良住宅が何戸以上(通常の住宅地区改良事業は50戸、小規模住宅地区改良事業は15戸以上(過疎地域の場合は5戸以上)とされており、その中で必要となる賃貸住宅が改良住宅として建設・供給される。整備基準や家賃設定に関しては基本的には公営住宅に準ずるものとなっている。
 阪神大震災でも活用されたが、適用地域数及び改良住宅の供給戸数は把握できていない。新潟県中越地震では、小規模住宅地区改良事業の中で改良住宅20戸が建設されているようである。

(4)サービス付高齢者住宅
 公的賃貸住宅とは少々異なるが、高齢者が対象であり、一定の公的補助が入ることからは、公的性格を持つと言ってもよいだろう。従来の高齢者専用賃貸住宅などを再編して今年度から創設されたものである。
 主として民間が建設し運営する高齢者向けの住宅に対して、一定の整備基準等を満たす場合に、建築や改修の費用に対して補助が行われる。

 さて、このような制度を踏まえて、住宅の復興においてどのような活用が考えられるだろうか。それについてはまた後日まとめるとして、おそらく「制度ありき」で考えるべきではないのだと思う。先にまとめたように、制度は正直いってかなり複雑である。これを理解した上で、では何をやろうか?と考えるのは、結構大変なのではないか。むしろ、各地域の状況や被災者のニーズを踏まえた上で、「こういう住宅が必要だ」「こんな住宅がほしい」というイメージを考えた上で、それを実現するにはどの制度が使えるか?制度のどこを改善すれば実現できるか?を考えた方がよいのではないか、とも思う。

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