住宅の復興はどのような形で行われるだろうか
先に「応急的住まいの現状はどうなっているか」というのをまとめてみたが、この次に来る「住宅の復興(再建)」がどのような形で行われるのかについて考えてみたい。これを考えるには、住宅の供給側の選択肢(集団移転や災害公営住宅など)と、需要側=被災者の住宅に対する希望の、両方の情報が必要なわけだが、供給側を規定する各自治体の復興計画や国の支援策・事業制度は出そろっていないし、被災者側の住宅へのニーズもまだ十分に分かってはいない(いくつか意識調査は行われているようなので、いずれ整理をしてみるつもりだが)。
そのような状況で住宅復興のあり方を考えようとしても、過程に過程を重ねるしかなく、中途半端であまり意味のないものにしかなりそうにないが、とりあえず推論的にでも考えられることをまとめておこうと思う。
応急的住まいの後の「復興住宅」として、どのような再建のパターンが考えられるのかを整理してみたのが、以下の図である。図の左側には「応急的住まい」の種類を、右側には「復興住宅」として想定される形を並べている。図の上部は「従前地域内」、つまり元々住んでいた地域(市町村あるいは合併前の旧町村など)の中で住むことを、下部は「従前地域外」で、元々住んでいた地域の外(県外も含む)で住むことを表している。このように捉えた時に、左=応急から右=復興に進む過程でどのような住宅選択行動(住宅の移動)が行われるのかについて、考えられる状況を推測として示している(なお矢印の太さは世帯数のイメージを示す)。
推測をする際には、前提として以下のような傾向があるのではないかとの仮説に基づいて考えている。もちろんそうはならない場合や地域も多いと思うが、問題の単純化のためにとりあえずこのように考えてみている、ということである。
- 応急的住まいとしての公営住宅等は、被災地域内にはそれほど多くあるわけではないのではないか。また、民間賃貸借上仮設も被災地域外が中心になるのではないか。
・都市部であれば公営住宅も民間賃貸もあるだろうが、そのような状況ではない被災地の方が全体としては多いのではないか。
・津波被害の著しい地域では、公営住宅や民間住宅も被害を受けており、使えないものが多いのではないか。その結果、地域内においては、建設型の仮設住宅が中心になるのではないか。
- 世帯の特性によって住宅選択のパターンは異なるのではないか。
・世帯の類型を、高齢世帯/農林水産業世帯/一般世帯に区分して捉える。
・高齢世帯は住み慣れた環境を離れたくないので、応急でも復興でも出来るだけ被災地域内に残る/戻る傾向があるのではないか。被災地域外に移る際には、子供の呼び寄せなど、親族がいる場合になるのではないか。
・自然・土地との関係が深い農林水産業世帯は、応急段階で被災地域内に残る傾向が強く、また復興でも基本的には被災地域内に戻ろうとするのではないか。
- 応急的住まいが、被災地域内にあるか被災地域外にあるかで、復興住宅の選択が変わるのではないか。
・応急的住まいで被災地域内に残った人は、復興住宅についても基本的には被災地域内を離れないのではないか。
・被災地域外に移った一般世帯は、被災地域内に戻るかそのまま地域外に残るかを判断することになるのではないか。判断する際の要素としては、勤務先や収入の事情、被災地域の復興状況、地元への愛着などが考えられるか。
・被災地域外に移った高齢世帯は、親族による呼び寄せの場合が多いだろうから、そのまま被災地域外に残る方が多いのではないか。
- 被災地域は従前は総じて持家率が高かったので、基本的には持家に住もうとする志向が強いのではないか。
・農林水産業世帯及び一般世帯は、資金が確保出来るのであれば、または仕事での収入が回復する見込みがあるのであれば、自宅を所有しようとするのではないか。
・高齢世帯の場合は、所得・貯蓄が少なく借入も難しいため、持家をもつのは難しいのではないか。
仮に上記のように考えてみた場合には、世帯類型ごとに次のような住宅復興のシナリオ(のようなもの)が考えられるのではないだろうか。
- 高齢世帯の多くは、被災地域内の公的賃貸住宅(災害公営住宅等)に移る。一部は、子供に呼び寄せられて、都市部の民間賃貸住宅へと移る。
- 農林水産業世帯は、基本的には被災地域内へと戻る。一定の資産を持つ人や生業の再生が期待できる人は自宅を再建し(従前地か移転先かいずれか)、それがない人は公的賃貸住宅へと入居する。
- 被災地域内に残った一般世帯は、農林水産業世帯と同様、所得等の状況で自宅再建か公的賃貸住宅かに分かれる。被災地域外に移った一般世帯は、仕事との関係などを踏まえた上で、状況によっては外にとどまり、民間分譲住宅の購入や、民間賃貸住宅への入居を行う。
なお、被災地域内の公的賃貸住宅へと入居した農林水産業世帯・一般世帯については、入居後しばらく(数年から10年程度?)して、生活が安定し仕事や収入も回復したのであれば、自宅の再建(あるいは持家の取得)をしようとするのではないか。
実際、雲仙普賢岳の災害からの住宅再建を調べた研究(木本勢也・横山健志・北後明彦・室崎益輝「雲仙普賢岳噴火災害から13年を経た住宅再建・復興の実態」地域安全学会梗概集 15, pp.139-142, 2004年)によれば、10数年後の災害公営住宅では、既に他の区へ転居していた人が多いため回収率が低い状況がみられたとしており、残っている被災者も今後移転する予定/移転せざるを得ないと回答した人が4割前後いて、移転先は持家を希望していたという。
このようになると考えた場合には、「公的賃貸住宅」に関しては、次のような状況や問題が生じるのではないか、と考えられる。
- 供給当初は様々な形の世帯が住んでいるが、農林水産業世帯や一般世帯は徐々に自宅再建をして転居していくのではないか。
- そのため増えていく空き家には、新たに入ってくる層(公営住宅の場合は低所得者層に限られる)がおらず、ストックが放置されることになってしまうのではないか。
- 残った高齢世帯では加齢が進んで、身体の能力が低下していくので、生活支援や介護などのサービスが必要不可欠になるのではないか。
- 住宅の管理に関して、動くことの出来る世代の農林水産業世帯・一般世帯が減少していき、高齢者の身体能力が低下していくから、住民による自主的管理は難しくなり、公的機関による管理コストが上昇してしまうのではないか。
これらはあくまで仮説に仮説を重ねた推論に過ぎないわけだが、仮にこのような事態が生じるとするならば、それを想定した上でどのような形で公的賃貸住宅の供給・管理を行えばよいか、をしっかりと考える必要があると思われる。とにかく早期に被災者に提供しようと、一般的な形態のものをつくってしまえば、後で大きな“負の遺産”にもなりかねないからである。
そのように考える際に、先に「公的賃貸住宅の制度にはどんなものがあるか」でまとめたような様々なタイプをうまく使いわけたり、今回の状況に応じて仕組みを変えるなどの対応が必要なのではないか、と思う。
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