都市計画規制は好不況に影響されるべきか?
静岡県の三島市が、導入予定だった高さ規制を、不況のため見送ったとの記事があった。記事によれば、高層マンション建築による紛争を抑えるべく、市内の広い範囲で高さ規制(高度地区)を導入しようとしたが、規制強化が市街地開発の制約となる恐れがあるため、導入を延期したという。
不況で建築物の高さ規制を見送り、三島市(日経BP ケンプラッツ)
この話を聞いた時は、延期したものをいつの時点で導入するのか?を疑問に感じた。不況のため延期なのだから、「好況」になったら導入ということになるのだろうか。好況の定義は難しいところだが、この場合は開発振興のために延期したのだから、単に景気がよくなったとか基準数値が上がったとかではなくて、「開発が起きるようになった」ことを指すのだろう。となれば、「開発が起き始めたらor盛んになったら導入する」ということになり、盛り上がった開発意欲に水を差すような形での導入を、誰がどうやって判断出来るのか?という気がする。さらに、盛り上がったところで導入するのだろうが、(再)導入の検討から実施までには時間がかかるから、導入ギリギリでの駆け込み申請が多くなる可能性も高い。また、この「猶予」期間に建てられたものは、導入後には既存不適格になるわけである。つまり、今後問題となる物件が増えるのは明らかであり、そのことをどう考えるのかと思ってしまうわけである。
こう考えれば、むしろ不況の時、つまり開発が行われていない時だからこそ、規制を導入するという方が、長い目でみれば確実に街のためになるのではないかという気がする。そもそも、事前に規制を定めて紛争を回避するために高さ規制を準備したのだから、規制は開発が起こる前に導入されなければ意味がない。であれば、不況であるか否かにかかわらず、「あらかじめ」導入しておくことが必要なのであって、それを延期するというのは当初の論理を全く無視した対応ではないだろうか。こういう判断をした人達が、改めて規制の導入が出来るのかは、甚だ疑問と言わざるを得ず、このまま規制導入はお流れになるのではないか、という気もしてしまう。仮に導入を延期するとしても、当初予定していた規制強化の地域(市街化区域の約58%という)全体で延期する必要はないのではないか。マンションなどの開発が起きそうな地域や建ってもそれほど差し支えない地域を検討して、そこについては延期をするが、それ以外の地域は予定通り規制を行うのが、都市計画的な論理だと思うのだが。
開発圧力を受けての広範囲での規制導入は他の地域でも行われているが、規制が緊急避難的なものとして位置づけられている限りは、今回のような形、つまり開発がないのだから規制はしなくてもよい、という論理がどうしても出てくるのだろう。その結果として、好況の時には規制を強化し、不況時には規制を緩和するという、景気に応じて都市計画を変えるような対応がなされるのかもしれない。都市計画というのは、昔のように長期的な将来像に基づいて固定的に規定するグランドデザインというよりは、その時々の街の状況に応じて柔軟に使い分ける道具のようなものになっているから、都市計画が変わること自体はそう問題ではないと思う。しかし、単純に好不況に左右されて、好況を呼び込むための手段のように使われることには、どうしても違和感を感じてしまう。そういう使い方から生じた問題が、バブル以降の規制緩和の流れの中でいくつもみられているではないか。もう少し長い目で都市を考えて、あるべき都市像を踏まえつつ、それを実現するために道具としての規制をうまく柔軟に活用する、という方向にいかないものだろうか。
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