Apr 14, 2011

空き家賃貸住宅の被災者仮住まいへの活用を考える(2)

(1)より続く

 続いて、仮住まいに移るにあたって最も重要と思われる、「1.住宅の立地」に関して考える。ここでは、被災地(県)からの距離を考えて、仮に次の5つのエリアに分けて捉えてみることにする。
(A)被災県:岩手・宮城・福島
 …茨城・千葉も被災地だが被害程度を考えて仮に外す
(B)被災地隣接県:青森・秋田・山形・新潟・群馬・栃木・茨城
 …被災県に接する県
(C)被災地近隣県:北海道、富山・長野・埼玉・東京・千葉・神奈川・山梨・静岡
  …隣接県に接する県、及びそれらと被災県から同程度の距離の県
(D)その他東日本:石川、福井、岐阜、愛知
 …関西よりも東を仮に位置づける
(E)その他全国:上記以外の県
 これらの5エリアの都道府県について、空き家・賃貸用の住宅の状況を集計したのが[表3]である。先に全国について述べた通り「腐朽・破損あり」は不適切と考え、また(A)被災県については地震による建物被害や地域の被害も想定されるため半数程度しか使えないと仮定すれば、それぞれのエリアで仮住まいとして活用可能と考えられる空き家賃貸住宅の戸数は、以下のようになろう。
  (A)被災県:7.3万戸
  (B)隣接県:31.0万戸
  (C)近接県:131.8万戸
  (D)東日本:25.5万戸
  (E)その他全国:123.9万戸

表3 「空き家」の「賃貸用の住宅」の県別・エリア別の状況

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 このような仮住まいの住宅供給に対して、需要側はどのような状況だろうか。そして需要に対して供給はどの程度満たされるのだろうか。住宅の被害戸数の全体像はまだ明確にはなっていないが、「建築物被害状況」や「避難者数」をベースに考えれば、[表4]のような形となろう。
 警察庁の4/13時点の情報によれば、建築物被害は全域で全壊59972戸、半壊13149戸となっている(発表された合計値と若干異なるのだが)。原発問題のある福島県では確認が進んでいないようだが、とりあえずこの値を用いて「全壊戸数と半壊戸数の半分」が仮住まいを必要とすると仮定すれば、必要戸数は「66547戸」となる。
 一方、警察庁の同じ情報によれば、避難者の人数は全域で138286人となっている。この数は他県からの避難も含むため、仮住まいの段階でも当該県にいるとは限らないが、とりあえず避難先の県内で仮住まいも探すと仮定して、国勢調査に基づく全国の平均世帯人数2.55人を用いれば、必要世帯数は「54518世帯」となる。
 住宅の戸数と世帯数は必ずしも対応しているわけではないのだが、ここはおおよそ同じと扱うとして、前記の必要戸数と必要世帯数のより大きな方が、必要となる仮住まいの数だと想定すると(つまり多めにとるということ)、想定必要戸数は「80378戸」となる。この場合に、「避難者人数」の必要世帯数の方が「建築物被害」の必要戸数より大きい場合(表中の黄色の県)には、建物被害は相対的に少ないのに避難者が多いわけだから、(A)被災県からの広域避難者が中心とみてよいだろう。

表4 仮住まいが必要と想定される戸数の推定

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 この需要に対して、空き家賃貸住宅が足りているのかどうかを考えてみる。充足状況について推定してみたのが[表5]である。
前出の「活用可能想定戸数」の全てが被災者の受け入れに使われる、つまり大家が被災者への貸し出し(あるいは行政による仮設住宅としての借り上げ)に応じるとは考えられないから、一定割合の物件のみが受け入れに使われると想定するのが妥当であろう。
 国交省・住宅局の対応状況の資料によれば、福島県について「応急仮設住宅として借り上げる際の条件を提示して確保した5千戸の借上対象」とあるので、福島県の活用可能想定戸数22900戸の「20%」程度で受け入れが出来る(借り上げが出来る)と考えることができよう。この割合は他の(A)被災県でも同様と考えてもよさそうだが、必ずしも被災地ではない(B)隣接県では事情は異なり、これだけの割合で受け入れられるとは考えられないので、仮にその半分の「10%」が受け入れに応じると想定する。(C)近隣県以遠では、さらに受け入れ割合は下がると思われるから、「5%」の受け入れと仮に考えてみる。
 このように仮説的に考えてみると、空き家民間住宅で想定される受入戸数は、次のように推定することができるだろう。
  (A)被災県:1.4万戸
  (B)隣接県:3.1万戸
  (C)近接県:6.5万戸
  (D)東日本:1.2万戸
  (E)その他全国:6.2万戸

 先に出した需要側の「想定必要戸数」と、この供給側の「受入想定戸数」とを比較するわけだが、まずは「全て空き家賃貸住宅で受け入れる」場合を考えてみる。その際の受け入れに関しては、まずは当該都道府県内の被災者を第一に受け入れる、と考えるのが妥当だろう。こう考えた場合の各都道府県での充足状況は「当該県内受入」の項の通りであり、(A)被災県では5.3万戸が足りない計算となる。この不足分について、被災県からの距離が近く2.3万戸の余裕がある(B)隣接県で受け入れるとすれば、それでも足りない分は2.9万戸となる。この分に関しては、(C)近接県のうち被災県からの交通の便が比較的よいと考えられる関東の4県で十分受け入れが可能であり、それでも1.3万戸の余裕がある計算になる。
 つまり、全ての被災者を空き家賃貸住宅で受け入れるとした場合でも、(A)被災県、(B)隣接県、及び(C)近隣県のうち関東だけで十分まかなえるのであり、それ以遠の県の空き家を使う必要はないと考えられるのである。

 続いて、建設される仮設住宅で優先して被災者の受け入れを行った上で、足りない分を空き家賃貸住宅で受け入れる場合を考えてみる。前述の国交省の資料によれば、(A)被災県で計62000戸、その他もあわせて全域で62290戸が、仮設住宅の建設が必要な戸数として示されている。
 これらの建設予定の仮設住宅で、想定必要戸数を受け入れるわけだが、広域避難した被災者も元の県の仮設住宅に戻ってくるのを第一に希望していると考えれば、前述のように広域避難被災者が多いとみられる県(表中の黄色の部分)については、ここの想定必要戸数は(A)被災県で受け入れることを考えなければならない。そこで広域避難被災者の需要戸数(表中の黄色)を、被災3県に等分に割り振るとして、充足状況を計算したのが表の「仮設住宅受入」の数値である。
これより、(A)被災県の岩手で3.6千戸、宮城で10.9千戸が足りない計算となる。福島の場合は1.9千戸余る計算となるが、これは被害状況が確認されていない原発周辺地域も含めて仮設住宅の必要戸数を考えているためであろう。全域でみれば、仮設住宅で足りないとみられる戸数は1.8万戸と想定される。
 この分を各県内の空き家賃貸住宅で受け入れるとすれば、(A)被災県の岩手で0.6千戸、宮城で3.9千戸が足りないことになるが、この程度の住戸数であれば(B)隣接県において十分受け入れられる数である。実際には、建設仮設住宅・空き家賃貸住宅の他に、公営住宅等も活用されるのであるから、(A)被災県内でほぼ対応しうるとも考えられるだろう。
 よって、仮設住宅への入居を第一に考え、足りない分を空き家賃貸住宅で受け入れる場合には、(A)被災県でほぼまかなうことができ、不足分も一部の(B)隣接県で対応できると考えられる。

表5 仮住まいとして活用する空き家民間住宅の充足状況の推定

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 あくまでも現状で手に入るデータを元にした非常に粗い推計ではあるが、空き家賃貸住宅の仮住まいとしての活用は、(A)被災県と(B)隣接県を中心に実施すればよく、それでも不足する事態が生じても(C)近隣県の関東地方だけでまかなえるものと推測される。
 よって、全国を対象として広く空き家賃貸住宅の活用を促す必要はそれほどないのであり、被災者が元々住んでいた地域での生活・住宅再建を望むのであれば、(A)被災県及び(B)隣接県において空き家賃貸住宅の掘り起こしを行えば、十分に対応しうるものと考えられる。

 なお、遠隔地の空き家賃貸住宅については、一定地域にまとまった戸数が確保出来て従前のコミュニティ単位で移住出来るところがある、従前と同様の仕事が実施出来る環境がある、あるいは社会的弱者が必要とする適切なケアが受けられるような場合で、被災県・隣接県及び近隣県でそのような環境が得られないのであれば、活用する意義はあるものと思われる。

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空き家賃貸住宅の被災者仮住まいへの活用を考える(1)

 被災者への仮住まいの提供を推進する人々は、「全国には750万戸の空き家があり、そのうち400万戸は賃貸住宅であるから、仮設住宅を建設するよりもこれらの空き家ストックを活用すべき」という主張をすることが多い。確かにこれだけの空き家があるのだから、これらを被災者の仮住まいに活用することは必要だろう。
 しかし、「全国400万戸の賃貸住宅を活用」と言ってしまうのは、あまりに雑駁すぎるようにも思える。東北地方(及び茨城・千葉など)の被災者を受け入れるために、いきなり全国津々浦々の空き家を活用することを考えるのは、被災者の生活再建のことを考えればあまり現実的ではないし、また一口に「空き家の賃貸住宅」といってもその状況は様々であるから、そのあたりも考慮した上で、「どこの/どういう賃貸住宅の空き家を/どのように活用するか」を考える必要があろう。
 ということで、全国400万戸の民間賃貸住宅の空き家がどのような状況であるのかを改めて捉え直した上で、それらを被災者の仮住まい−一時避難の受け入れというよりは、2年程度の中長期に渡って移住する住まい−としてどのように活用できるのかを考えてみたい。

 「全国400万戸の賃貸住宅」というデータの出所は、平成20年住宅・土地統計調査とみられる。この調査の「結果の概要」の「第1章 住宅・世帯の概況(PDF)」では、平成20年(2008年)の空き家は「757万戸」で、総住宅数5759万戸に対する割合=空き家率は「13.1%」とされている。この空き家のうち、「賃貸用の住宅」が「413万戸」となっており、この数字が「全国400万戸の賃貸住宅」の根拠と思われる。

 これらの空き家賃貸住宅を被災者向けの仮住まいとして活用する際に考慮しなければならない事項としては、次のようなことが挙げられるだろう。これらを踏まえた上で、被災者の仮住まいとして活用することが出来る/望ましい賃貸住宅はどの程度あるのかを考えてみる。

1.住宅の立地: 生活・住宅再建を考えれば、出来るだけ被災地に近いところが望ましい。
2.住宅の質 : 仮設住宅相当で2年かそれ以上住むとすれば、一定の住宅の質が必要。
3.周辺の環境: 慣れない土地で暮らすため、周辺の生活環境が整っている方が望ましい。

 なお、本来は市町村単位で詳細に検討することが望ましいのだが(特に被災地に関しては)、作業時間の関係とデータの制約を考えて、以降の作業ではとりあえず都道府県単位で考える。

 まずは全国の状況についてみてみる。「2.住宅の質」に関して重要なのは、建築時期・床面積・設備などの住宅内部の性能・環境なのだが、空き家については住んでいる世帯がいないので内部の調査は出来ないため、外観調査に基づくデータしか示されてない。これらのデータに関する空き家の賃貸用の住宅の状況は[表1]のようになっている。
 空き家賃貸住宅の総数は413万戸だが、そのうち被災地での従前の住まいの一般的な建て方とみられる「一戸建」は26万戸に過ぎず、大半の359万戸は共同住宅で、そのうち非木造が271万戸となっている。つまり、空き家賃貸住宅に移るということは、従前の木造一戸建とは全く違う形態の非木造共同住宅へと移ることを意味しており、住まいの環境の変化は大きい。
また、総数のうち87万戸は「腐朽・破損あり」=建物の主要部分やその他に不具合がある、となっている。これらの物件も当然手を加えれば住めると思われるが、被災者に対して早急に提供する意味では相対的には適切ではない。よって、全国の空き家賃貸住宅で仮住まいとしてすぐに提供できるのは「326万戸」と考えられる。

表1 「空き家」の「賃貸用の住宅」の建て方と腐朽・破損の状況(全国)

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 「3.周辺の環境」に関しては、住宅から最寄りの各種施設等までの距離が示されており、それらをまとめたのが[表2]である。被災者が被災地外の仮住まいに移るにあたっては、自動車を確保することは難しい面もあると思われるから、歩いて生活できる場所に住むのが出来れば望ましいと考え、1km(12~13分程)を徒歩圏内と仮定するならば、医療機関・公民館等・郵便局等まで(日常的な買い物もこのエリアと思われる)が徒歩圏内は9割程度だが、老人デイサービスセンターが徒歩圏内は約7割で、駅から徒歩圏内は全体の約半数となっている。
 駅から遠い物件ではバス等を使えばよいとしても、医療機関・公民館等・郵便局等が徒歩圏内ではない物件(30~50万戸)は若干問題があると考えれば、空き家賃貸住宅ストックの「1割」程度は仮住まいとして適当ではないようにも思える。

表2 「空き家」の「賃貸用の住宅」の各種施設等までの距離(全国)

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 このように考えれば、全国の空き家賃貸住宅の総数が400万戸だとしても、住宅の質に関する腐朽・破損の状況や、周辺環境を表す生活施設までのアクセスを考慮すれば、仮住まいとして活用可能なのは最大でもおおよそ「300万戸」程度なのではないか、と考えることが出来よう。

(2)へ続く…

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Apr 05, 2011

被災地外への仮住まいによる住宅再建への影響の考察

 にも書いたように、被災者を域外の住宅等で一時的に受け入れようとする動きが広がっている。被災地から実際にどの程度が移っているのかは不明であるが、域外からの情報発信や受け入れの体制は整ってきており、今後一時避難を行う被災者が増えることも予想される。
 そのような形で、被災者が被災地の自宅を離れて域外の住宅へ移った場合に、その後の住宅再建に関して何らかの影響が出ないものだろうか。その点について考えてみたい。

 まず、過去の震災の状況からすれば、被災から住宅の再建に至る一般的なプロセスは、おおよそ次の図のような形で整理できるだろう。

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 自宅が被害を受けると、まずは「避難所」へと移る。その間に自宅の「被害状況調査」が行われて建物の被害程度が「全壊・大規模半壊・半壊」などと判断され、このような被災の状況・度合いを証明するものとして「り災証明書」が発行される。この証明書に基づいて公的な支援が行われるわけだが、住まいに関してこの応急対応段階では、大きく「仮設住宅」と「応急修理」の2つの支援策があり、被災者は被害程度等に応じてどちらか一方を受けることが出来る。
 仮設住宅は、原則最長2年間を限度として仮の住まいを提供するものであり、新規に建設されるプレハブ住宅(建設型仮設)と、行政が借り上げた民間賃貸住宅(借上型仮設)の2種類がある。そして、これらへ入居できるのは原則「全壊」の被災者となっており(中越の際には降雪の問題もあり大規模半壊等も対象になった)、順次完成したあるいは借り上げた仮設住宅へと入居していく。
 応急修理制度は、大規模半壊と半壊を対象に(全壊も含む場合あり)、自宅で生活するために最低限必要な補修工事を公共負担(最大52万円)で行うものである。被災者が市町村に申し込んだ上で、斡旋を受けた工事業者に修理を依頼し、終了後に工事業者が自治体に費用を請求する手順となる。また、応急修理と自治体独自の再建支援制度を併用することで、「最低限必要な」部分以上の本復旧工事を行う場合もみられる(中越の場合はこの形も多かった)。
 仮設住宅に入居した被災者は、入居期間中にどのように住まいを再建するかを検討する。再建の方向としては、従前の敷地での「自宅の再建」(建替え)、新たな場所での「新規購入または賃貸」、及び公的に供給される「復興住宅」への入居、が主なものとして挙げられる。そして、そのような形で再建するための公的支援策の申込や調整等の手続を行い、新たな住まいを確保して、仮設住宅を後にすることになる。

 以上のような大まかな住宅再建の過程で、域外に仮住まいしていた場合には、どのような影響が出るだろうか。仮住まいといっても、「避難所」を代替する役割=数ヶ月程度の一時避難受入れ住宅か、「仮設住宅」を代替する役割=半年~2年以上の一定期間暮らす住宅かで状況は異なるので、それぞれの場合について考えてみる。
(1)「避難所を代替する住宅」の場合
 この場合には、り災証明に関わる諸手続、そして仮設住宅の入居申込や応急修理制度の申込・工事依頼等の手続を、現地から離れた地域で行わなければならない。
 り災証明については、被害度合いによって受けられる支援の度合いが異なるので、判断結果に対する申し立て(半壊とされたが本当は大規模半壊なのでは、とか)が出されて調整することも多いのだが、そのような調整を域外の避難地からやるのは少々難しい面があると思われる。
 応急修理を行う場合には、自治体への申込/業者への工事依頼/工事完了の確認/自治体への費用請求(これは業者が行うが)などの手続が必要となるため、距離の離れた地域からではうまく進めることが難しい面もあろう。特に、今回は被害が甚大で広域であるから、被災地で修理業者を確保することは結構困難になると思われ、域外に避難すればなおさら難しいとも思われる。
 その他の一般的な手続-り災証明の発行手続や、仮設住宅の入居申込-などは、郵送等でも対応は可能だろうが、被災地から離れていると、申込の方法や期限に関する情報が適切に伝わらない危険性も考えられる。
(2)「仮設住宅を代替する住宅」の場合
 こちらの場合も、住宅再建に関する各種の手続を、現地から離れた地域で行うことになる。「自宅を再建」する場合には新築(建替え)工事を行う業者の手配と調整、「新規購入・賃貸」する場合には物件探しと契約の手続、「復興住宅」への入居の場合には申込の手続などを、遠隔地から行うことにならざるをえない。これらの手続は、随時必要な際に現地に行って行えばよいのであるが、仮住まい先が非常に遠い場所になった際には、その時間的・費用的な負担は大きくなるだろう。また、(1)でも書いたように、公的な支援策に関係するような手続については、被災地から離れていると、申込の方法や期限に関する情報が適切に伝わらない危険性も考えられる。

 このようにみると、域外の仮住まいに移った場合には、その後元の土地で住まいを再建しようとした際には一定のハードルがあるものと考えられる。では、このようなハードルをクリアするには、どういう対応が必要だろうか。
 まずは、仮住まいする場所に関しては、被災地=元の居住地までの便が比較的よいところを優先して選ぶ、というのがあろう。特に移動後すぐにも現地での様々な対応が必要になる、応急修理制度によって自宅の補修を行おうと考えている場合には、その点を考慮しておくことが大切だろう。
 また、現地に信頼できる“協力者”をあらかじめ確保しておくことも考えられる。応急修理や自宅再建をするのであれば工事を行ってくれる業者を手配しておくとか、新規購入・賃貸をするのなら不動産業者との関係をつくっておくとか、である。また、公的な支援の申込等の情報についても、例えば現地に残る知人に随時情報を送ってもらうなどの形が出来れば、より安心だろう。
 などの自主的な対応と同時に、行政としても何らかの対応策を用意することが望ましい。遠隔地から郵便や電話あるいはメールなどでも申請や調整がしやすい体制をつくるとか、支援の申込等に関する情報はインターネット等で広く公開するほかに(希望者に対しては)個別に連絡を取るとかである。あるいは、現地にいる代理人による申請や交渉も可能にするなども必要かもしれない(現状の仕組みでどうなっているかは確認していないが)。

 これまでの住宅再建の支援に関しては、大半の人が被災地の避難所や仮設住宅に集まっていることを前提とした形で、情報発信や申請等の手続が組まれていたようにも思う。しかし、仮に広域的かつ個別的な一時避難または仮設的居住が行われるのであれば、情報発信や手続実施もそれに合わせた仕組みを検討しなければならないのかもしれない。このあたりは、今回の震災でも出来るだけ対応できればよいし、もしくは今後起こりうる広域災害の際には重要な課題になると思われる。

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Mar 21, 2011

被災地域外の仮住まいで入居後の支援を実施する方法

 先に、あんしん賃貸支援事業の枠組を使って、被災者の仮住まいへの入居を支援することが出来るのではないか、とのアイデアを書いた(「あんしん賃貸支援事業の枠組の被災者支援への活用案」)。ここでは、被災地において個々の被災者の相談に乗り、今後の生活再建の流れを考えた上で、それに合わせた仮住まいの形を提案する…という(仮住まいへの)「入居前支援」が重要だと考えていて、そのために被災地の自治体をベースにして居住支援協議会を立ち上げて居住支援団体の活動を行うことを検討したのだが、甚大な被害を受けて緊急段階の対応に追われている被災自治体では、現時点でこのような取り組みを始めるのはやはり難しいのかもしれない。
 となれば、入居前支援は無理だとしても、「入居後支援」は行えればと思う。被災後の不安定な状況で慣れない地域に来た被災者に対しては、仮住まいへの移転後もある程度の生活面での支援が必要と思われるからである。しかし、このような域外に置ける入居後の支援活動を位置づける制度はないと思われ(詳細は未確認)、また仮住まいの提供に要する費用は災害救助法の弾力的運用で国負担になるとしても、これらの生活支援までも対象になるのかは定かではない。

 と考えると、先に示した「あんしん賃貸支援事業」のスキームを被災者を受け入れる地域において活用し、居住支援協議会が行う活動の一環として「民間賃貸住宅及び公営住宅に移転してきた被災者の入居後支援を行う」というのを位置づけて、支援団体による仮住まいへの移転後支援を行うアイデアもあるような気がする。
 つまり、既に居住支援協議会が既にある地域では、来年度の活動に移転してきた被災者の入居後支援を位置づけて、既存の支援団体あるいは新規の支援団体と協力して、移転後の支援体制を構築する形が考えられる。現時点で居住支援協議会がない地域では、被災者支援を目的にして新たに協議会を立ち上げて、関係機関との間の調整を行い、かつ支援団体を募集して支援活動を行う、みたいな形が考えられるのではないかと。そしてこれらの被災者支援に要する費用は、(来年度から開始される予定の)居住支援協議会活動支援事業で国が助成を行うという考えである。
 こういう形をとれば、被災者の生活を支えたいと考える民間ボランティア団体・NPOも制度的な位置づけが得られるし、活動に要する費用に関しても(どの程度かは分からないが)公的な負担が可能になるのではないか。
 そして、このような入居後の支援を行うことで、「被災地域外への仮住まい移転に関する(一抹の)不安」で書いた内容の一部も、ある程度解消できるのではないかと考えられる。

 「被災者」は住宅セーフティネット法における「住宅確保要配慮者」に位置づけられているから、住宅確保要配慮者を対象として行われる居住支援協議会の活動の中に、被災者を位置づけることは仕組み的には問題ないと思われる。若干問題になるとすれば、当該地域外から来た住宅確保要配慮者を対象にする点だが、平時の支援においても県外から来る人の対応も行っているのであるから、このあたりは問題はないのではないか。

 なお、今年度のあんしん賃貸支援事業の提案募集では、上記のような「居住支援協議会が行う民間賃貸住宅等への入居の円滑化に係る活動の支援に関する事業」の他に、「既存賃貸住宅活用に係る地域ネットワークの形成・活用促進事業」、つまり「既存賃貸住宅を借り上げることによる公営住宅の供給」を検討することも位置づけられているから、それこそ民間賃貸住宅借り上げによる一時避難住宅・仮設住宅の供給も、この枠内で検討できるのではないか。

 さらにいえば、居住支援協議会の活動目的は、民間賃貸住宅への入居支援にとどまるものではなく、公的賃貸住宅ストックの活用に関することも含まれるから(実際、神奈川県の居住支援協議会では、この両者を柱として位置づけている)、公的住宅における被災者の受け入れの話も、この協議会をベースにして検討できるのではないか。そうすれば、被災者の仮住まいにおいて、公的住宅と民間賃貸住宅とでどのような役割分担をするのか、両者をあわせた形でどのような受け入れ及び入居後の生活支援の体制が構築できるのか、というようなことも議論が出来るだろう。
 例えば、罹災証明があり制度的に問題ない人は公的住宅で、罹災証明がない人は民間が提供するボランティア的な住宅で受け入れるとか(福井県ではそのような形を考えている様子)、入居が中長期に渡る見込みの人は一時避難からそのまま仮設住宅扱いにするなど柔軟な対応が(相対的に)しやすい公的住宅で受け入れ、比較的短期で現地に戻れそうな人は民間賃貸住宅で受け入れるなどの、適切な対応がとりやすくなるのではないか。

 被害が非常に大きい分、被災地の避難所から動けない人も多く、仮住まいへの移動はまだ実際にはそれほど多くはないのだろう。しかし、いずれ移動が増えてきた時のことを考えて、例えば上記のような形で受け入れ体制を考えておくことも必要かもしれない。
 そして、このような体制が確立出来たところから先に/を中心にして、仮住まいへの受け入れは進めるべきではないかとも思う。被災者であっても自分で判断して動き自力で状況に適応出来る人もいるが、多くの場合には様々な困難を抱えて不安な立場にいるわけであるから、住まいというハードさえ提供すればよいわけではなく、その後の生活を支えるソフトも必要なわけで、両者の提供が可能な都道府県を軸にした域外受け入れの仕組みを整えた方がよいと考える。

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Mar 20, 2011

被災地域外への仮住まい移転に関する(一抹の)不安

 今回の地震の被害が広域かつ甚大であるのを受けて、被災者を域外の住宅で一時的に受け入れようとする動きが広がっている。公的住宅の空き家に受け入れるというこれまでも行われてきた方法のほか、民間ベースでも、例えば「仮り住まいの輪」などのような形で、善意の大家と被災者をマッチングする動きがみられる。
 こうした動き自体は必要だし、基本的には被災者のためにもなるとは思うが、このような「仮住まい」への避難・移転が個別の動きとしてどんどん進められると、被災者の生活再建に必ずしも寄与しない部分もあるのではないか、及び受け入れる側も後で大変な思いをするのではないか、という気もする。以下、気になることを箇条書きで挙げてみる。


  • 仮住まいへの移転という行為が、災害救助法に基づく公的な再建支援制度と整合するか。個人単位で行き先を探して移動してしまった際に、その後の復興関係の支援制度が適用されないとか情報が流れないとかはないか。一度仮住まいしたが地元に戻りたい時に仮設住宅に入居できない、仮設住宅相当とみなされ応急修理制度の対象外になるなどの問題はないか。
  • 移転先の居住環境に順応できるか。最近の公営住宅ではいわゆる残余化(単身高齢化、低所得化)も進んでいるので、被災者と他の入居者との間にギャップがあると、生活環境として問題ある場合も。団地のコミュニティ=自治会がしっかりした所では管理は良いが、適切な管理も出来ず関係が悪いところもあると聞く。
  • また、東北から他の地域(例えば関西)に移ってくると、生活の環境や文化はかなり違うわけで、そこをどうフォローするのかも課題ではないか。適切なフォローがないままに世帯が孤立してしまうと、大きな問題ともなりかねない。
  • 住宅の質の問題はどうか。空き室がある住宅は相対的に人気がないわけで、質や交通の便が悪い可能性も高い。たとえ一時的とはいえ、そのような住宅に住むのは被災者にとってどうなのか。特に民間賃貸住宅の場合、政策的判断とかではなく、借り手がいないから空いているわけで、そうして貸せる物件の質は結構低いことも危惧される。
  • 入居する期間の問題。公的住宅では入居期間3カ月~1年程度で、これは避難所の代替の意味だろうが、その後どうなるのか。被災地の仮設住宅に戻ることは可能なのか。また民間賃貸の場合はどの程度をイメージするか。善意でタダで貸せるのは、非常に短期間に限られるのでは。当初の予定期間を過ぎた場合、延長にも対応するのか。公的住宅ならある程度対応可能だが、民間賃貸ではどうか。
  • 善意とか無料での提供というのは理想的なのだが、そうであるからこそ、両者の間の関係が崩れた時に生じる問題は大きいのではないか。善意の気持ちは一歩間違えば大きな敵意に変わりかねない。そういう不安定な状況に被災した方々を置けるか。
  • 物件の選定の問題。親族・知人が現地にいるならともかく、こんなふうに戸数と連絡先だけが並んでも選びにくいのではないか。どういう住宅の間取り・広さなのか、周辺環境はどうなのか、入居後にどんな生活支援が得られるのかも含めた情報提供が必要では(注:兵庫県では団地名と戸別の間取り・面積等まで公開、広島県は生活支援実施の内容も記載)。
  • 申込の手続の問題。現状では既に個別の先着順申込を受け付けている様子。となると、域外避難が必ずしも必要ない人の申込で良い条件の住宅が埋まっていき、本当に必要な人に渡らなくなる危険性も。ネット等を使えない高齢者には仮住まい情報はなかなか届かないだろうし、大被害地域の被災者は避難所の暮らしで精一杯で、仮住まい情報も不十分で検討も出来ていないのではないか。そんな人にこそ長期間いられる良い住まいが必要だが。
  • 同じ問題で、個別に住戸への割り当てをしてしまうと、地域毎・避難所毎にまとまって移転をしようとした時に、一定地域(あるいは特定自治体)内にまとまった数の住宅が確保できなくなるのではないか(実際、同じ団地内で確保できるのはせいぜい一桁戸単位の模様)。

 いずれも一研究者の思いつきのレベルであり、実際に生じている状況に基づいた考察ではないが、こういう問題・課題が起きることは十分に想定されるのではないか。
 そういう意味では、域外への避難・疎開を過度に推奨・促進するようなムードはつくらないようにした上で、域外の仮住まいに移る方が望ましい地域(避難所)・被災者とそうでない地域・被災者との整理や、どういう状況の人はどんなチャンネルを使ってどういう住まいに移るのがよいのかという役割分担などを検討して、ある程度冷静かつ計画的に避難・疎開を進める/勧めることが必要ではないかと思う。

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Mar 16, 2011

あんしん賃貸支援事業の枠組の被災者支援への活用案

(今回の震災に関して、個人的に考えたアイデアです)

 3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の被害は甚大で広範囲に渡っており、現時点で避難者は約34万人と膨大な数です。被害を考えれば停電・断水等が終わっても自宅に戻れる人の数は少ないとみられ、1~3ヶ月後の応急段階においては、避難者の仮住まいをどう確保するかが大きな課題になると思われます。
 仮住まいに関しては、従来の震災では仮設住宅の建設が中心でしたが、被害が甚大であること、また津波を受けた沿岸部では建設用地の確保も難しいと思われることからすれば、公営住宅・UR賃貸住宅の空室や民間賃貸住宅の積極的活用も含めた仮住まいの確保が必要とみられます。実際そのような動きも始まっており、国土交通省の災害情報によれば、全国で公営住宅約11800戸、UR賃貸住宅約1000戸が提供可能な空き室として把握されており、(社)全国賃貸住宅経営協会等からも住宅支援の申し出が行われています。

 そのような際に、あんしん賃貸支援事業のフレームが活用しうるのではないかと考えます。
 あんしん賃貸支援事業とは、高齢者・障害者・外国人・子育て世帯等の住宅確保要配慮者、並びに賃貸人の双方の不安を解消するため、入居後の見守り等と入居時の物件探し等のサポートを総合的に行う仕組みを構築し、円滑な入居と安定した賃貸借を支援するものです(詳細はこのページを)。
 以下の図に示すような枠組で、物件の情報提供及び斡旋・仲介はあんしん賃貸協力店が行い、物件見学への同行や契約手続の立合い・説明補助等の入居時の支援はあんしん賃貸支援団体と協力店が連携して実施し、定期的な安否確認や相談対応、緊急時の対応などの入居後の生活支援をあんしん賃貸支援団体が行います。

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 あんしん賃貸支援事業が基づいている、いわゆる住宅セーフティネット法では、住宅確保要配慮者として「被災者」も位置づけられておりますので、あんしん賃貸支援事業のフレームをこのような形で用いることは、法の趣旨にも沿っているものであり、積極的な活用が望ましいのではないかと考えます。
 そして、以下の2点において、あんしん賃貸支援事業のフレームが活用しうるのではないかと考えます。

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(1)仮住まいの確保に際して、居住支援協議会に基づく支援団体等を活用する

 公営住宅や民間賃貸住宅への転居に際しては、被災地から距離のある地域の、従前住宅とは全く異なる住まいに移る可能性も高いため、個々の被災者の状況に合わせた適切な住宅探しと入居を支援するとともに、住み慣れない地域での不安な暮らしを少しでも支えるべく、状況に応じて入居後の支援も行う必要があると思われます。被災者が高齢者や障害者、外国人の場合にはなおさらです。

 このように考えますと、あんしん賃貸支援事業のような居住支援を、被災者の仮住まい探しにも適用することが考えられるのではないかと考えます。
 具体的には、状況を判断した上で必要であれば被災地の県(もしくは市)単位で居住支援協議会を立ち上げて、生活相談及び不動産紹介を行う人員を確保して支援団体を構成し、生活再建全体の相談に対応する中で適切な仮住まいを提案し入居を支援するようなイメージです。あわせて必要に応じて、移転後の生活を見守る支援団体を位置づけることも考えられます。
 この協議会の立ち上げ及び運営に要する費用、並びに対応する団体の経費や人員の人件費等を、あんしん賃貸支援事業の後継的事業として位置づけられる、居住支援協議会活動支援事業によって国が助成する形がとれれば、地域毎の居住支援が可能になるのではないかと考えます。

 具体的なイメージとしては、以下のような形が考えられるでしょうか。
1)居住支援協議会の立ち上げ
 通常の協議会の立ち上げと同様に、都道府県・市町村の関連部署(住宅系・福祉系)、不動産系業界団体、社会福祉協議会・NPO等などによって構成することになりますが、手間を考えれば手続は簡素化する必要があると思われます。
2)入居前支援体制の構築
 入居前支援としては、物件情報の提供、選定の助言、契約手続の支援などがありますが、その人の生活全体の状況や問題を踏まえた上で望ましい住まいの形を見いだすことが重要です。ですので、支援の体制においては、物件関係を扱う担当者と、生活全般を考える相談員の役割の両方が必要になり、例えば前者は不動産系団体への委託、後者は相談の専門家や社協・NPOへの委託になるでしょうか(もちろん両方を担える人材が望ましいですが)。現地では人員が確保できない場合には、外部からの応援(被災地以外の支援団体への委託・連携)も考えられます。
3)入居後支援体制の構築
 入居後支援としては、見守りや相談対応、被災者に対する情報提供などが考えられます。移転先が同一地域内であれば、入居前支援を行う団体がそのまま対応する形もありえますが、地域外となるとその地域の団体と協力して行う体制が必要になります(このような対応を円滑に行う意味では、同一地域の被災者は近接した地域に移ることが望ましいかもしれません)。

 このような形を可能にするには、現行の事業制度の一部見直しも必要かと思われます。
 また、震災時の一般の相談対応等との整合も問題になるかと思いますが、そのあたりは柔軟に対応して、同一の役割の相談員を本事業と他事業とでうまく按分して扱うなどもあるのかと考えます。

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(2)仮住まいの情報提供に関して、あんしん賃貸ネットのシステムを活用する

 被災後の仮住まいに関しては、全国の公営住宅・UR賃貸住宅での受け入れが検討されており、現在空き室数の確認が行われています。これらの物件の情報を広域に渡る被災地に対してどのような形で提供するかは課題と思われます。
 また、民間賃貸住宅の活用に関しては、新潟県中越地震の際にはこれらを行政が借り上げて最長2年提供する対応がとられました(参考としてこちらの報告書原稿の「借上型仮設住宅」の項を)。この時は不動産業界団体から提供された物件のリストを紙ベースで利用していたと記憶していますが、今回の地震では広い範囲の被災地でより大量で広域に渡る物件の情報を扱う必要があるとみられ、紙ベースの対応では到底追いつかないと思われます。
 さらに、震災後のネット上の動きをみていますと、個別の不動産業者や大家等が協力して被災者に空き室を提供しようとの動きも起きつつあるようで、このような形で出てくる物件の情報を被災地全体で共有し、適切な形で被災者に提供するためには、どこからでも接続可能な物件のデータベースが必要と思われます。

 このようにみると、本年度で終了予定の「あんしん賃貸ネット」のシステムを活用して、被災者向けの仮住まいの情報を提供することは出来ないかと考えます。
 具体的には、被災者を受入可能な公営住宅・UR賃貸住宅の情報や、上述のような不動産業界・不動産業者・大家から提供される民間賃貸住宅の情報を、本目的にあわせて一定程度改良した上記システムに統合的に登録して、被災地各地から物件情報を検索するようなイメージです。
 これらの被災者向け物件の情報は、通常の公営住宅・UR賃貸住宅及び民間賃貸住宅の物件情報システムとは別に動かした方がよいと思われますので、本年度で終了するあんしん賃貸ネットのシステムを転用する意義はあると思われます。
 あわせて、物件の入居申込の手続についても、被災地以外の後方地域に窓口を設置して、一元化して行うことが望ましいと考えます。

 実際のところは、入居が決まった物件の情報をどう扱うかなどの問題があるかと思いますが、非常時とはいえそれぞれの方にニーズに合った住宅を提供して安心して住んでいただくようにするには、物件全体の情報を見通せるようにして、ある程度の比較選択を可能にすることは重要だと考えます。

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Jul 02, 2010

住宅政策の観点から2010マニフェストを読む:比較考察編

 これまでみてきた各党のマニフェストの内容を比較考察してみたい。考察で扱うのは、住宅政策に関して一定の記述がみられた、民主党自民党公明党共産党社民党の5党とする。なお、前述の通り民主党のマニフェストには記載は少ないのだが、与党の政策を扱わないわけにもいかないので、昨年のマニフェスト及び「政策集INDEX2009」の内容が現在も生きているものとみなして、考察を行う(2009年の記述部分は薄いグレーとしている)。
 これら以外の党では、住宅政策の記述は非常に少なくなっており、党の規模が小さいと、住宅政策の部分にまで手が回らないということなのかもしれない。となれば、住宅政策は残念ながら“二の次”という位置づけであるともみることが出来よう。

 さて、まずは各党の基本的な方針についてみていく。マニフェストに書かれた事項のうち、各党の基本的なスタンスを示しているとみられる部分を整理すれば、おそらく以下のようになると思われる。

民主党持ち家取得への偏重を是正し、ライフスタイル・ライフステージに合った住宅政策へ転換(2009年版より)
自民党住宅を資産として残せる社会を実現、ライフステージの各段階や多様な働き方・暮らし方に応じたゆとりある住環境を獲得
公明党セーフティネット住宅を100万戸供給
共産党市場任せでなく国・自治体が積極的に介入するなど、住宅政策を転換し、国民の居住の権利を明確にし、その保障を基本とする。
社民党社会保障としての住宅政策、国民の「住む権利」を保障します。

 民主党と自民党は、持ち家=資産としての住宅の捉え方が異なるが、多様な暮らし方に合った住まいの提供という点は共通している。この2党では、住宅セーフティネットは多様な住まいのうちの一部あるいは多様な住まいを支えるものと位置づけられているようである。一方、全体として福祉を重視している公明党は、住宅セーフティネットを全面に打ち出している形である。共産党・社民党も同様にセーフティネットを考えているが、「権利」を保障するためとしているところは、公明党とは異なる。公明党の場合には権利という概念はマニフェスト中ではみられず、現実に生じている課題への対処という側面が強いのではないだろうか。

 続いては注目すべき個別のテーマ毎にみていきたい。まずは、上記でも出てきた「住宅セーフティネット」関連について、各党で書かれている内容は以下のようになっている。

項目 民主党 自民党 公明党 共産党 社民党
公的住宅 セーフティネットとしての活用 (記載なし) 空き家リフォームによる整備 、ストック更新とバリアフリー化 、家賃減額措置等の拡充、定期借家制度の適切な導入 新規建設や借り上げ等での大幅増、入居基準等の変更を元に戻す、UR住宅の民営化阻止 戸数を増やす、家賃見直し、入居資格緩和、UR住宅の民営化阻止
民間住宅 (記載なし) (記載なし) (記載なし) 家賃補助、初期費用貸付、公的な居住保証制度 家賃補助、入居差別の禁止
高齢者 (記載なし) 施設の整備 ケア付き住宅の拡充、住み替え支援事業、施設の大幅増 ケア付住宅の整備、公的住宅での家賃減免、民間賃貸での家賃補助、施設の整備 施設の整備
障害者 (記載なし) グループホーム(GH)居住者への助成 住宅確保の支援、GH等の整備、GH居住者への住宅手当 住まい確保の推進、GH等の選択肢整備 (記載なし)
子育て世帯 (記載なし) (記載なし) (記載なし) 公的住宅整備、家賃補助 (記載なし)
失業者等 支援を強化、公的住宅等の確保 (記載なし) 再就職支援付住宅手当 住宅手当、公的住宅の活用、家賃補助、貧困ビジネス規制 生活保護から住宅扶助を分離、総合窓口設置、ゼロゼロ物件の規制、公的住宅の活用

 各党の考え方の違いがはっきりとみてとれる。前述の通り、セーフティネットを重視する公明党・共産党・社民党と、あまり重視していないようにみえる民主党・自民党との違いは大きい。重視する3党の間では、国・自治体による直接的な建設や家賃補助を打ち出す共産党・社民党と、整備を進めるとしているが直接建設よりは民間の活用という側面がみられる公明党、に違いがみられる。さらに言えば、社民党よりも共産党の方が、直接的な建設・補助をより明確に位置づけているようである。

 セーフティネットではない、「一般の住宅」に対する政策をみると、各党で書かれている内容は以下のようになっている。

項目 民主党 自民党 公明党 共産党 社民党
新築住宅 長期優良住宅の普及、エコ住宅の普及、木造の長寿命住宅を推進 長期優良住宅の供給、断熱住宅の推進、省エネ化を加速、2世帯・3世帯住宅の推進 長期優良住宅の普及、保険制度の創設、省エネ化推進のための補助・税制・融資 (記載なし) (記載なし)
中古住宅 バリアフリー・耐震補強・省エネ改修を支援 耐震・省エネ・バリアフリー改修の推進、住み替え・中古流通の市場環境整備 建替え・リフォームで耐震化、バリアフリー・省エネ改修の推進、中古住宅市場の流通促進 耐震・バリアフリー化リフォームの支援 住み替えが柔軟に行える仕組み
民間賃貸住宅 家賃補助や所得控除等の支援、定期借家制度の推進、市場の活性化 賃貸住宅の供給推進 良質な賃貸住宅の供給、紛争の防止 定期借家制度に反対、入居差別をなくす、家賃補助 入居差別をなくす、家賃補助の導入
マンション (記載なし) (記載なし) 適切な管理と再生を促進 耐震・バリアフリー化・省エネ化の支援、管理組合への支援、消費者保護、マンション管理士活用、再生を支援する法整備 (記載なし)
金融・税制等 ノンリコース型ローンの普及、リバースモーゲージの推進、両手取引の禁止 (記載なし) 住宅金融支援機構ローンの拡充、債務返済条件の緩和、ノンリコースローンの仕組み構築 家賃に関する税控除 (記載なし)

 新築住宅への政策を位置づける民主党・自民党・公明党と、位置づけのない共産党・社民党が対照的である。前述の通り、政府による公的住宅を重視する場合には、民間による新築住宅には関心がないといえるかもしれない。中古住宅ストックの重視・活用という部分は、改修を進める、住み替えや流通を促す点で、各党ともおおよそ共通しているようである。民間賃貸住宅についても、供給の推進は共通しているようだが、定期借家と家賃補助の扱いが大きく異なる。マンションや金融・税制等では、他の項目では考え方が異なる政党が、共通して関心をもつ内容が見られるのが興味深い。

 以上のように見ると、住宅政策に関して争点になりそうなのは、「住宅セーフティネットの重視度」「新築住宅への支援のあり方」「民間住宅の活用方策」といったあたりになるのだろうか。

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Jun 29, 2010

住宅政策の観点から2010マニフェストを読む:その他政党編

 民主党、自民党、公明党、共産党、社民党と続けてきたが、残る政党についてはまとめて整理する。政党の規模で扱いを変えているわけではなく、住宅政策に関するまとまった記述が見られないため、一括して扱うこととしている。以降では、5/31時点での国会議席配分順に、国民新党・みんなの党・新党改革・たちあがれ日本の4党についてみていく(新党日本はマニフェストがみられないので対象外とした)。

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■国民新党
 「2010政策集」が出されており、前半が「概要」を示す形、後半は「政策集」として詳細な項目が並んでいる。前半も後半も基本的には内容は同じなので、より詳しい後半の「政策集」をみよう。この中で住まいに関連する内容としては、以下の2項目が挙げられる。

Ⅱ 経済成長による財政健全化-景気回復に全力投球
5.中小企業活性化から日本復活
○昨年度成立した中小企業や住宅ローン等の支払猶予制度を経済が本格的な回復基調に戻るまでの間継続すると共に、貸し渋り・貸し剥がし対策を強化します。
Ⅳ 小泉・竹中改革の抜本的見直し-格差の解消、地域の再生
3.改正障害者自立支援法の一層の充実
○(前略)今回の法改正により応能負担の原則が明示され、発達障害者がサービスの対象に加えられた事、またグループホーム、ケアホームへの助成制度が加わった事や家族支援が強化された事などは非常に有意義であったと考えられます。国民新党は今後の改正法案の施行状況を丁寧に確認しつつ、応能負担の更なる徹底、サービス範囲の拡充を図ってゆきます。

 前者は景気回復のための住宅ローンの支払い猶予であって住宅そのものには触れておらず、後者は改正のポイントを示すだけで今後の方向性として住まい関係を論じているわけではない。いずれにしても、住宅政策自体は語られていないわけである。

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■みんなの党
 「アジェンダ2010成長戦略」で政策が示されており、この中で住宅に関連する内容は、以下の2項目である。

Ⅱ 世界標準の経済政策を遂行し、 生活を豊かにする!
□経済成長戦略で雇用を増やす
2.格差を固定しない「頑張れば報われる」雇用・失業対策を実現する
③雇用保険と生活保護の隙間を埋める新たなセーフティーネットを構築。雇用保険が切れた長期失業者、非正規労働者等を対象に職業訓練を実施。その間の生活支援手当の給付、医療保険の負担軽減策、住宅確保支援を実施。
□「生涯安心」 「誰でも安心」のセーフティーネットを構築し、生活崩壊をくい止める
1.病院崩壊、老人ホーム崩壊、年金崩壊を防ぐ
(医療・介護)
④療養病床削減計画は凍結し、療養病床、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、在宅ケア、高齢者住宅などの役割を再検討し、高齢者の視点に立った総合的な高齢者福祉政策を実現する。

 前者は失業時の一時的な対応とみられ、住宅セーフティネットそのもののあり方について触れているわけではない。後者は「役割を再検討」とあるが、具体的にどういう方向で進めるのかは述べられていない。

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■新党改革
 「新党改革の約束2010」という形でまとめられている。もう一つ同じタイトルの「要約版」もあるが、こちらは政策の項目名が並ぶだけで中身は説明されていないので、前者の内容を見ていく。住まいに関連する内容としては、以下のものが挙げられる。

改革その4:安心して暮らせる社会
計画9:70歳現役社会
□医療・介護のデーターベース公開、高齢者住宅
○また、自分らしい老後のライフスタイル実現の拠点となる高齢者向け住宅について、中古住宅の活用などにより供給数を増やし、入りたい人の希望が満たされるようにします。
計画11:世界最高の暮らし
□住宅・都市政策
○家族形態は時とともに変化します。結婚し夫婦二人の生活が始まる。子供の誕生。子供が成長して独立。また夫婦二人の生活に戻る。高齢になれば、広い一軒家の掃除も大変になります。
○これまでの住宅・都市政策は、持ち家政策一辺倒でした(全国の持ち家率は61.2%)。しかし、ライフサイクルを考えると、賃貸住宅を充実させ、生活に合わせて住宅を選ぶ形に切り替えることが国民の豊かさに繋がります。少子化が進んでいるので、余った家の処分も問題となります。
○一方で、国民の持ち家志向も強いものがあるので、持ち家・賃貸いずれでも対応できるよう、格安で良質の賃貸住宅を提供します。そのため、都市・住宅における政策・規制等の徹底した見直しを行い、国民の豊かさに直結する改革を断行します。

 ここまでみてきた他党とは異なり、「住宅政策」が独立した項目立てとなっている。前半の「高齢者住宅」について具体の供給策は書かれていないが、「中古住宅の活用など」というところをみれば、公共的なものをつくるというよりは、民間供給を促進するものと考えられる。後半の「住宅政策」部分も同様であり、賃貸住宅の充実を掲げているが、公的賃貸を増やすというよりは、規制緩和等によって民間供給を促進することが考えられているのだろう。

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■たちあがれ日本
 「政策宣言2010」という形でまとめられており、「原案」と「政策資料カラー版」の2つがあるが、書かれている内容は同じとみられる。住まいに関連するとみられる内容としては、次の事項が挙げられる。

【1】強い経済
2. 医療・介護・保育で300万人の新規雇用を
①医療・介護・保育分野で新規雇用拡大
課題2:施設不足→規制緩和で介護施設・子育て施設を、公設民営や小規模多機能施設という形で増やしていきます。
【2】強い財政
1.戦後最大の「税制革命」が日本を強くする
④贈与税・相続税
・住居用に、贈与税非課税枠(現行4000万円)を5000万円まで拡大します。
3.次世代に迷惑をかけずに医療や年金の「安心」を強くする
[1]医療・介護
②「介護難民」の解消
・グループホーム、小規模多機能サービスを拡大します。
③独居高齢者に対する住宅保障
・「最後まで住み続けることができる住まい・地域」へ制度改革を進めます。
【5】強いふるさと
1. 山と海を守り、里を守り、治安を守る
①「地域力」を引き出す「ふるさと減税」「孫カワ減税」
・「孫カワ減税」も実施します。孫への学資、結婚資金、住宅資金など「未来型贈与」については贈与税を非課税化します。

 整理すれば、(住宅系)施設の整備による介護難民の解消、高齢者の住宅保障、住宅関係の贈与税の緩和、の大きく3点となるだろうか。税に関しては具体の数字や名称も出ているが、その他の2項目については具体的にどのようにするのか、方向性がみえるような記載ではない。

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 これらをみると、「新党改革」は住宅政策を項目立てしているが、課題として挙げられている感じで具体の提案としては弱いと言わざるを得ない。その他の党では、経済活性化のため住宅を利用するという発想と、高齢者向け住まいの整備という課題が述べられる形であり、住宅政策全体をどう考えるのかは示されていないといえる。

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Jun 28, 2010

住宅政策の観点から2010マニフェストを読む:社民党編

 民主党、自民党、公明党、共産党と来て、今度は社民党について。
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■社民党
 社民党のマニフェストは「ダイジェスト版」と「総合版」の2つがある。いずれも「生活再建10の約束」として、10分野の政策課題に対する提案をまとめている。総合版を整理したのがダイジェスト版のようである。

 まず「ダイジェスト版」だが、この中で住まい関係に関して言及しているのは、以下の部分である。

再建1:はたらく
○雇用、 生活保護、 医療、住宅の総合相談・支援窓口を各自治体に作ります。
再建2:いのち
○国民の「住む権利」を保障します。公共賃貸住宅を増やすとともに、家賃補助を充実します。

 セーフティネットの対応の中で住宅も含めたワンストップ窓口をつくるというのが前者で、後者は住宅政策そのものを直接取り扱っている。内容は詳しいものではないが、マニフェストの概要版=主要な課題を提示したものにおいて、住宅政策を明示しているのはこの党だけとなる。なお、昨年のものにも同じ項目が挙げられている。

 続いて「総合編」であるが、前述の住宅政策に関する内容は、以下のような形で詳細に記されている。

再建2:いのち
7.社会保障としての住宅政策
○住宅こそ生活の基礎であり、 「住まいは人権」 です。「住宅先進国」 をめざし、 住生活の向上と居住の権利を保障するため、 「住宅基本法」を制定します。
○優良な公共賃貸住宅を増やします。入居資格を緩和して、低所得の若者や高中年の単身者などの入居を可能にします。居住者の不安を煽る旧公団住宅(UR住宅)の民営化に反対します。
○低所得者、中堅所得者、高齢者等に対する住宅のセーフティネットとして適切に機能しうるよう、公営住宅制度等の見直しを進めていきます。旧公団住宅や公営住宅を団地居住者にとってのみならず、オープンスペースや緑地、子どもの遊び場、地域の防災拠点など地域社会の貴重な環境資源としても活用します。集合住宅における世代間交流を促進します。
○公営・旧公団住宅については、居住者の居住の安定と社会不安の進展、空家対策等の観点から、高齢者が安心して住み続けられる家賃や若者も住める家賃へと見直します。また民間借家についても多様な家賃補助制度を導入すべきです。民間賃貸住宅の入居差別を許しません。
○雇用促進住宅の廃止をやめて、若者の雇用と住まいのために積極的に活用します。
○子どもを育てる世代、バリアフリーの住宅を望む高齢者世代など、人生の節目に合わせた住み替えを柔軟に行えるようにしていきます。
○貧困者を食い物にするいわゆるゼロゼロ物件に対する規制を強化します。

 全体には住宅セーフティネットの話であり、公共賃貸住宅の充実が柱となっている。民間住宅及び持ち家に対する記述は少ない。

 このような住宅セーフティネット関連の話は、別の分野でも以下のような形で記載されている。

再建1:はたらく
1.ヒューマン・ニューディール(いのちとみどりの公共投資)で雇用を創出します
○高齢者や若者向けの公共賃貸住宅の整備、保育所や介護施設の建設・増床、学校や公共施設のエコ改修・太陽光化・耐震化、(中略)など、将来につながる事業や、いずれ必要になる事業を前倒しで実施します。
7.職業訓練と生活費を保障する新たなセーフティネットを創設します
○雇用、生活保護、医療、住宅などの総合相談・支援窓口を各自治体に作ります。
9.職業教育訓練や、就労支援を強化します
○若者就労支援を充実させるとともに、住宅対策として、雇用促進住宅の利活用などをすすめます。
再建2:いのち
3.介護保険・高齢者福祉
(4)介護サービス基盤を整備します
○介護療養病床を全廃する計画を中止し、地域に必要な病床数を確保します。待機者が38万人にもなる特養ホームの緊急整備を行います。
6.生活保護・ひとり親家庭
○生活保護から住宅扶助と医療扶助を切り離して、それぞれを単給で活用できるように制度を改善します。ホームレスやネット・カフェ難民などに対応し、生活保護を受ける手前の支援策として機動的に運用します。

 先の住宅政策関係と同様に、公共賃貸住宅及び公的施設(特養ホーム)を充実させ活用するほか、「住宅扶助」の切り離しが明確に示されているのは興味深い。

 一方で、一般の住宅に関する記述としては、次の部分が見られる。

再建5:地域 2.地方再生
○地域住宅産業は環境にやさしく地域の雇用や経済など裾野が広い効果を持っています。循環型社会にふさわしい木造住宅建設の振興に努力します。建設技能者の育成を図るため、職業関連助成金の確保、業界全体で建設技能者養成に取り組むための建設技能者養成基金(仮称)を創設します。
○改正建築基準法施行の結果、建築確認の審査が厳格化され、住宅着工戸数をはじめ産業界や公共の建設投資も急減し、「官製不況」ともいうべき社会的な大混乱を招いています。これは、実務を知らない官僚・学者や巨大な外郭団体、天下り団体によって、現実離れの弥縫策で粉塗してきた国交省の施策の失敗といわざるをえません。安全性よりも安さや効率性を追求する異常なまでのコスト削減競争、手抜き工事等を生み出す元請-下請-孫請という重層的多重下請・ピンハネ構造、「設計」 、「施工」 、「監理」の「三権分立」の崩壊、建築士の施工業者への従属による不適正な業務や 「名義貸し」 の横行、 ずさんな建築確認 ・ 検査の実態、規制緩和・民間開放の流れといった構造的な問題に踏み込んだ抜本的な対策が必要です。改正建築基準法について、徹底的に検証し、建築確認申請のあり方を実務にあわせて見直します。適正マンパワーの確保、一級建築士の専門化(意匠、構造、設備)及び地位向上と責任の明確化をはかるようにします。また、伝統構法や大工技術の継承、木の文化の発展に配慮するものとなるようにします。
○建築の質を高め、社会を豊かにするため、建築物を社会資産とみなし、建築主・所有者の財産権と周辺の環境権との調整の原則を示すような「建築基本法」の制定をめざします。
9.災害対策
○被災者生活再建支援法について、支援金の支給限度額や住宅の被害認定のあり方、半壊世帯に対する支援等の点での改善を図っていきます。

 1点目は地域住宅産業の振興でまさしく「地方再生」に関することだが、残りの点は住宅や建築の社会的なあり方に対する問題提起である。提起はしているものの、具体的な中身についてはここからは見えないのであるが。

 全体としては、「住宅セーフティネットを支える公共賃貸住宅の重視」ということになるだろうか。比較考察は後日行うつもりだが、自民党の政策とは逆方向、公明党・共産党とは共通という感じにみえる。

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Jun 24, 2010

住宅政策の観点から2010マニフェストを読む:共産党編

 4党目の共産党について、住宅政策の観点からみる。
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■共産党
 大きく3つのものが示されている。「参議院選挙政策」とその内容をコンパクトにした「参議院選挙公約(ダイジェスト版)」、「政策の詳細(政策集)」、そして「各分野政策」である。それぞれについてみていこう。

 まず「参議院選挙政策」では、住宅分野に関する事項はみあたらない。高齢者の住まう場所に(わずかに)関連するものとして、「社会保障」についての記述の中に「特養ホームなどの施設整備」があるのみである。つまり、住宅政策は主要な論点とはされていない。

 続いて「政策の詳細(政策集)」であるが、この中で住宅に関係する事項を挙げると、次のようになっている。

3.日本経済の「根幹」にふさわしく、中小企業を本格的に支援します
(2)本格的な中小企業振興策をすすめます
◎生活密着型公共事業への転換をすすめ、公契約法・条例で人間らしい労働条件を保障する
 保育所・特養ホームの建設、学校・道路・橋梁の耐震補強や維持補修など生活密着型の公共事業に転換します。(中略)自治体の住宅リフォーム支援のとりくみを応援し、「小規模工事希望者登録制度」の活用を強めます。(後略)
4、農林漁業の再生―――食料自給率の向上めざして農政を抜本的に転換します
(3)農林漁業の担い手を育成し、後継者確保のために就業援助を強めます
 (前略)他地域から移住しての就業希望者にたいし、農地や住宅の斡旋、低利資金の提供、技術・経営を身につけるための教育・研究機関の強化、就業しようとする人のための農地、林地、船などの確保に国の支援を進めます。
(7)山村の活性化と低炭素社会の実現にむけ林業・木材産業の再生をはかります
 (前略)森林・林業を再生するため、間伐助成の拡充と作業路網の整備によって健全な森づくりをすすめ、住宅への地元産の木材使用への補助、公共施設建設への地元産木材の使用などで国産材の需要を拡大し、地場産業を活性化します。(後略)
5、社会保障――「削減」から「充実」へ、政策を抜本的に転換します
(3)介護を受ける人も支える人も安心できる介護制度への抜本的見直しをすすめます
◎「介護難民」をなくすため、介護施設を整備する
 特養ホームや小規模多機能施設などの整備をすすめ、5カ年計画で、42 万人にのぼる特養ホーム待機者の解消をめざします。(後略)

 大項目・中項目もつけているので若干分かりにくいが、その大・中項目から分かるように、住宅そのものの問題が扱われているのではなく、中小企業振興策や農林漁業・林業再生策の一手段として、住宅への対応が謳われている形である。最後の介護の話も、住宅というよりは施設の拡充の話である。

 計33分野が示され、最も細かい項目が挙げられている「各分野別政策」では、「住宅・マンション」分野が独立した1項目として扱われている。なぜマンションが別立てなのかは分からないが、内容は次のようなものである(なお、文章が長いため、筆者の方で簡略化して項目立ての形へと編集している)。

◎「住生活基本法」(「住宅基本法」)の改正
・(1)国民の住まいに対する権利の規定と国自治体の責務の明確化、(2)公共住宅の質量ともの改善の明確化、(3)耐震性や居住スペースなど、めざすべき居住・住環境の水準の法定化、(4)適切な居住費負担の設定、と家賃補助制度の創設 5)国民の居住権を守るための住宅関連業者・金融機関などの責務を明確化し、市場任せでなく国・自治体が積極的に介入するなど、住宅政策を転換し、国民の居住の権利を明確にし、その保障を基本とする。
◎住まい喪失者緊急対策
・失業に伴う住まい喪失者対策「住宅手当緊急特別支援事業」について、要件と手続きの緩和、手当支給期間の延長、さらに失業していないものの、収入が低いなどのため、务悪な居住環境におかれているものに対しても支給するなどの改善を図る。
◎雇用促進住宅の全廃方針を撤回
・定期契約者も含めて入居者の声を十分に聞き、納得のいく話し合いをおこない、一方的な住宅廃止や入居者退去の強行をやめさせる。低賃金や不安定雇用などで住居を確保できない人たちの住宅対策の一環として、雇用促進住宅の新たな活用をすすめる。
◎公営住宅の改善
・公営住宅の新規建設をすすめるとともに、民間賃貸住宅を借り上げて公営住宅にするなど多様な供給方式の活用で公営住宅を大幅に増やす。
・現行の月収20万円から15万8千円への入居基準の引き下げをやめ、若い子育て世代も入居できるようにする。
・子供への居住継承は復活させる。
・「孤独死」を防ぐため卖身高齢者見守りなどをおこなう自治会に対する支援制度を強化・充実する。
・家賃も収入にあったものにし、収入が増えると不当に高い家賃を課して居住者を「追い出す」ことをやめさせる。
・期限付き入居制度(期限がくれば理由の如何を問わず契約更新をおこなわない)、入居時の資産調査などをやめさせる。
◎公団住宅(UR 住宅)の改善
・UR賃貸住宅の「民営化」を許さず、公共住宅として守り、充実させる。「削減・民間売却」方針は、白紙撤回させる。
・住み続けられる家賃にするため、家賃は近傍同種家賃制度を改め、負担能力を考慮したものにする。
・高齢者や低所得者、子育て世帯への家賃減額制度をつくるなど家賃制度を改善する。
・老朽化した団地についても、一律建て替えでなく、改修やリフォームなど多様な住宅改善をすすめ、誰もが戻って住み続けられるようにする。
◎民間賃貸住宅の改善
・ヨーロッパ諸国での施策を参考にしながら、民間賃貸住宅に居住する低所得者への家賃補助制度を創設する。この家賃補助制度によって年収 200 万円以下の約 340 万世帯への居住費負担を軽減する。
・民間賃貸住宅に暮らす高齢者や子育て世帯、「生活困窮フリーター」と呼ばれ、低賃金のために家賃が払えない若者などにたいする自治体の家賃補助、敷金・礼金など住宅確保のための初期費用貸付や相談業務など、「チャレンジネット」のとりくみを広げると共に、公的な居住保証制度を確立し追い出しや被害の撲滅を図る。
◎定期借家制度の導入に反対
・新政権は借家人の追い出しを容易にする借地借家法の改悪や定期借家制度の導入を推進しているが、こうした居住の安定確保を脅かす改悪にきっぱり反対する。
◎住宅の改善、住環境の保護
・住宅の耐震化や老朽化対策、バリアフリー化など、安全で快適な住宅をめざすリフォームを自治体として支援する。
・耐震偽装事件に象徴される欠陥住宅問題の被害をなくすために、建築確認・検査制度を民間まかせにせず国や自治体の責任を明確にし、行き過ぎた厳格運用などを改善するとともに、消費者保護、被害者救済などの制度改善をすすめる。
・「瑕疵担保責任保険」については、中小建設事業者の保険料負担を軽減する。
○分譲マンションの維持・管理への支援
・国や自治体の責任で耐震診断・改修への助成を強めるとともに、共用部分のバリアフリー化、省エネ化、アスベストの除去などを支援する。 ・自治体の実態調査や相談窓口の整備などをすすめ、マンション管理の主体である管理組合のとりくみへの行政の支援を充実する。
・大規模修繕など、マンションを長持ちさせるとりくみを支援する。
・電気、ガス、水道など、ほんらい公共がおこなう基本的サービスの居住者負担を軽減するために、行政や、電力・ガス会社などに応分の負担を求める。
・すでにいくつもの自治体が実施しているように、集会室、ゴミ置き場、遊び場などは、その公共性にふさわしく固定資産税を減免する。集合住宅の共用部分の固定資産税を減免させる。
・マンション購入時の消費者保護をすすめる。
・管理組合の理事会をなくし、マンション管理を管理会社まかせにする「新マンション管理方式」をファミリータイプまで広げることに反対する。
・「住民が主人公」というマンション管理士の育成・活用や、管理組合団体などの自主的な助け合いのとりくみへの支援、行政の相談体制の整備など支援体制を充実させる。
・既存住宅は貴重な社会的資産であり、ストック重視の時代にふさわしく、従来型の「建て替え」でない、既存建物や団地の抜本的改修をはかるマンション「再生」を支援するために、法整備や助成の充実などにとりくむ。

 などと多数の項目が挙げられているが、半分は近年の改革によって変わった部分を「元に戻す」、あるいは変わろうとしている部分を「変えない」との内容であり、残りは既に取り組まれていることを「さらに推進する」という内容と思われ、住宅政策の新たな発想や方向性が提示されているという感じではない。

 「住宅・マンション」分野以外でも、住宅に言及している項目は多数みられる。特に、住宅セーフティネットに関係するような内容が多く、以下のような内容が挙げられている(ここでも先と同様の編集を行っている。なお、冒頭に数字が付いているのが「分野名」である)。

■1.労働・雇用
◎失業者の生活と職業訓練を保障し、安定した仕事、公的仕事への道を開きます
・ワーキング・プアや失業者に、公共・公営住宅の建設や借り上げ、家賃補助制度、生活資金貸与制度など、生活支援を強め、子どもの教育費や住宅ローンなどの緊急助成・つなぎ融資制度を創設する。
■2.社会保障
◎待機者解消へ 5 カ年計画で計画的な基盤整備の取り組みを進めます
・地域の介護をささえる核となる特養ホームや、生活支援ハウスなどの計画的整備、ショートステイの確保、グループホームや宅老所、小規模多機能施設への支援など、在宅でも施設でも、住み慣れた地域で安心して暮らせる基盤整備をすすめる。国による自治体への低い数値目標のおしつけをやめ、基盤整備への国庫補助を復活・充実する、都市部での介護施設やグループホームなどの用地取得への支援など、特養ホームの待機者を解消するための、緊急の基盤整備5カ年計画をすすめる。
・この間、高齢者施設で相次いでいる火災事件の教訓を踏まえ、275 m2未満の小規模なグループホームなども含めてスプリンクラーのような初期消火設備や自動火災報知装置などを設置するために国の補助を抜本的に拡充するとともに、なによりも「火事をおこさない」ために、夜間の職員の人員配置をふやし、職員の定着をはかることなど、介護労働者の処遇改善などをすすめる。
◎医療と介護の連携をすすめます
・特養ホームやグループホームなどでも、医療行為は医療保険の適用を認めるなど、医療と介護の連携を強め、どこでも必要な医療と介護が受けられるように改善する。
◎生活保護行政の改善を
・安価で入居できる公営住宅の整備や就労支援など、生活支援を強める。
◎保護基準・給付の抜本的改善を
・生活保護の給付は、老齢加算の廃止や、持ち家を持つ高齢者に不動産を担保にお金を貸し付けて、それを使い切るまでは保護を受けさせない「要保護世帯向け長期生活支援資金=リバースモーゲージ」導入など、さまざまな改悪にさらされてきたが、これらの改悪された制度を元に戻す。
・生活保護受給者を食い物にした「貧困ビジネス」、住居や食事を実態とかけはなれた高額料金で提供し、さまざまな名目をつけて保護費をほとんど“ピンハネ”する悪質業者や団体の野放しを許さず、実効性ある規制づくりに取り組む。
■3.子ども・子育て
◎住宅、生活、出産費用への援助など若い世代への支援をつよめます
 公共住宅の建設や「借り上げ」公営住宅制度、家賃補助制度、生活資金貸与制度など、国や自治体による支援を特別につよめる。
◎母子家庭・父子家庭への支援をつよめます
・保育所の増設をすすめ、ひとり親家庭が安心して優先入所できるようにする。安価で良質な公共住宅を供給する。
■10.高齢者
◎介護保険制度の見直し
・特別養護老人ホーム 42万人の待機者を解消するために、国の財政支援を大幅につよめ、施設整備を緊急重要課題として推進する。小規模・多機能の宅老所、グループホームが地域にきめこまかくととのえられるよう、国と自治体の財政支援をつよめる。
◎高齢者むけ住宅の増設
・住宅のリフォームがすすめられるよう、介護保険の住宅改造費を拡充するとともに、自治体の住宅改造助成制度の新設・拡充をはかる。
・高齢者むけケア付住宅・施設の整備を急ぐ。
・公営住宅や UR(住宅都市再生機構)の賃貸住宅の建設をふやし、高齢者むけ家賃減免制度の拡充をはかる。
・民間賃貸住宅に暮らす高齢者への自治体の家賃補助制度の普及をすすめる。
■11.障害者・障害児
◎事業体系を再検討し小規模作業所と地域活動支援センターの緊急支援を
・入所型の施設や「医療的ケア」を必要とする人たちへの支援策を含め、グループホームなど暮らしを支える多様な選択肢を整える。
◎精神障害者の支援を拡充する
・精神障害者が地域で安心して暮らせるよう、医療、福祉などの抜本的拡充をはかる。(中略)精神障害者の相談支援活動や住まいの確保をすすめる。
■13.若い世代
◎若者が安心してくらし、結婚・子育てできる環境を整えます
・家賃補助、公共住宅建設や生活資金貸与など、若者の生活支援を強める。 「派遣切り」によって青年が仕事も住居も失うという現状の打開は急務です。「人間らしく働けるルール」の確立とともに、国民の居住の権利の明確化、公共住宅の質量両面での改善など、住宅政策の抜本的な改善が必要です。当面、住宅喪失者に対する緊急策として公営・UR 住宅、雇用促進住宅を供給するとともに、初期費用や家賃の軽減、入居期間を再就職できるまでとするなどの措置をとり、一刻も早く正常な生活が営めるよう公共的支援を強める。
■28.いのち・人権の尊重
◎性的人権を守ります
・性別や性自認、性的指向を理由とした、就労や住宅入居などのあらゆる差別をなくし、生き方の多様性を認め合える社会をつくる。(中略)公営住宅、民間賃貸住宅の入居や継続、看護・面接、医療決定の問題など、同性のカップルがいっしょに暮らすにあたっての不利益を解消するため力をつくす。

 いわゆる“住宅弱者”の立場にある人々に対する対策が幅広く並んでおり、その中では全体に「公的住宅」の役割を重視している様子がうかがえる。

 この他、住宅に関連する政策としては、次のものがある。

■5.税制
◎人的控除廃止に反対し、課税最低限の引き上げなど、所得課税の減税をはかります
・「住宅は福祉」の観点に立って、家賃に関する税の控除制度の創設をはかる。
◎社会情勢の変化に対応した税制改革をすすめます
・集合住宅の共用部分の固定資産税を軽減する。
■25.防災・安全のまちづくり・過疎対策
◎被災者への支援を強化します
・被災住宅の被害判定に関して、居住者の立場にたった被害判定の基準とすること、総合的判定を可能とする体制を確立することが不可欠と考える。同時に、市町村で10世帯以上の住宅全壊被害などとする対象災害や「全壊」「大規模半壊」などに限定された支援対象世帯などを見直し支援の対象を抜本的に広げること、支給限度額を住宅再建にふさわしい額に引き上げることなどが必要である。
・災害救助法の運用については、被災住宅の応急修理や障害物の除去など、適用に必要な要件を緩和するとともに特別基準による基準額や適用期間の延長など被災の状況に見合った全面的な活用を追求する。
◎災害に強いまちづくり、国土づくりをすすめます
・地震による被害を最小限にくい止めるうえで、学校などの公共施設や緊急輸送路沿いの住宅などだけでなく、病院や大規模集客施設をはじめ宅地を含めたすべての住宅の耐震診断と耐震補強を計画的にすすめることが不可欠であり、そのために設置者・開発者のとりくみを促すとともに、国自身の計画を実行する責任を明確にした体制の確立と支援措置を強める。
◎過疎地における生活維持・地域活性化のための対策を強化します
 作業道の整備や、所有者不在の森林伐採を公共事業として進め、住宅や公共施設の建設での地元産材利用に国が助成するなど、林業の活性化を進める。

 このように、とにかく多様な内容が並んでおり、昨年のものよりは住宅分野の扱いがかなり充実している。しかし前述したように、上位の資料では記載されていないことからすれば、政策として重点的な扱いをされてはいないわけであり、重要性は認識しており個別政策としては多数並べておくが、選挙の争点にはならない、ということであろうか。

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