NPOの理念と経営の両立
老人施設「たまゆら」火災について、以前ブログで「療養施設の失敗で生活保護者を受け入れるようになったのでは」と書いたが、やはりそういう状況だったというのが分かってきた。先日逮捕された理事長の話によれば、「高齢者施設運営の失敗で借金が生じ、経営のため生活保護者を受け入れた」とのことである(産経新聞記事による)。
となれば、たまゆら=貧困ビジネス=悪、という単純な図式では捉えられない部分もあろう。もちろん、火災の危険性を考慮しない増改築や、避難体制をきちんと整えなかったことは責められるべきである。しかし、はじめから生活保護を目当てにしたいわゆる「貧困ビジネス」とは言えない面もあり(保護費を収入の核にする点では変わらないわけだが)、なぜそのようなビジネスに手を出さざるを得なかったか?という部分をきちんと考えなければならない。
直接調査はしていないので詳しいところは分からないが、定款や事業報告書の記述からすれば、この団体も最初は高齢者の暮らしを支えるサービスを提供とするという理念に基づいて活動が始まった部分は(少なからず)あるのではないか。そしてその理念を実現すべく、土地建物を取得して温浴施設・療養施設を開いたがうまくいかず、抱えた借金の返済のために(ある面では仕方なく)生活保護者の住まいへと転換し、資金も人員もかけられないから安全性の低い増改築と体制になってしまい、結果あのような事故が生じたのだとしたら、理念を実現する手段、特に経営面に問題があったということだろう。
理念はあるが経営は難しい。そういうNPOは他にもある、というか大半のNPOがそういう状況なのであるから、経営が厳しくなったことで、同様の形で活動が展開してしまうところが出てこないとも限らない。特に「住まい」をつくる、土地や建物がなければならず、そのために多額の費用が必要となる活動を行う場合には、理念に基づいて思い切って始めてみたものの、同じ状況に陥る可能性も高いと言わざるを得ない。そう考えれば、特定の問題ある団体が起こしてしまった事故というよりは、どんなNPOにも当てはまるような普遍的問題が、ここにはみられるような気がするのである。
理念と経営とをきちんと両立させて適切に運営している団体もあるわけで、そこは団体の能力・力量の問題であると言えなくもない。しかし、自前で出来ないのならばやるなと言ってしまっては、こういう公益的な領域での活動は広がっていかない。理念を持つ人が、それを適切な形で実現し、継続的に経営・運営できるような社会的仕組みを、特に難しい住まいの分野でつくっていくこと。今回の事故をきっかけに、生活保護者や高齢者の暮らしをどうするかに加えて、こういう部分についても考えていかなければならないのだろう。
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